4月 鼻折れのピノキオ

ハロウィンといいクリスマスといい、なぜ人類は月末と月明けにイベントを入れたがるのだろうか。

月替りの忙しさから、気づいたらイベントが終わっていて、続けているのはゲームのイベントぐらいという状況を何度見てきたことか。


エイプリルフールに至っては、全く関係ないイギリスのオークアップルデーから『午前中まで』というルールが輸入され、何のイベントかわからなくなってきている。

『エイプリルフールトハ、オークノ実ノブローチヲ胸二着ケテナイト、馬鹿二サレル行事ダヨ。ハハハ。』

と午前中に言っても、信じてもらえそうである。


しかしこんな嘘をつけば、ピノキオであれば置き場所に困るほど鼻が伸びるだろう。

物干し竿にしても余るぐらい。


「しかしまあ、ピノキオも伸ばす鼻を失えばただのボロ人形ですよ。」

と、電柱の裏に放置されたピノキオは自虐する。

子供が落とした人形だと仮定したら、だいぶトリッキーな落とし方をしたものだ。


「切断された指がまた生えてきたっていう話は聞くが。」

「それは幼い子供かつ、指先限定の話ですよ?」

ピノキオも幼い子供の人形とはいえ、折れた鼻がまた生えてくるには黒い外套に白黒の髪をした無免許の医者の力が必要かもしれない。


「それ、ピノキオとの関連が『ピノ』の部分しかないじゃないですか。」

「アッチョンブリケ。」

さて、今の若い読者層に通じるものではないので、中略としよう。


「ひとまず、鼻折れのピノキオというこの姿は随分とひねくれた皮肉ですね。巧くて笑うしかないぐらい。」

春らしいゆるく暖かい風が吹く。

どこからか飛ばされてきた桜の花弁がコートに吸い付くように着地し、私はそれを振り払った。


「では、その心は?」


「ピノキオというかピエロだったのですが、確かにどちらも鼻が高いですね。」

抽象的すぎるし、ピノキオに関しては鼻が高いとかそういう次元ではない気がする。


「私は嘘をつき続けてきました。『愉快、愉快。楽シイ人ダヨ』と。誰の前でもエンターテイナーを演じ、人を楽しませるように振る舞いました。」

サンタ・クロースより滑稽だな。

そう思っているうちに、また桜の花弁がひらひらと飛んでくる。

日が陰ったせいか、今度は冷たい風だった。

街中というのに、雑草は青々と春を騙ってくる。

お前らは年中元気いっぱいだろうが。


「常に本心が分からず、誰も信用せず、だからといって『仮面』とうまく馴染めるわけでもなく。私はどうしようもない孤独感に苛まれました。」

そういえば、このピノキオは鼻が無いのだから、嘘をついているのかが分からない。

この語りも騙りなのかもしれない。


「私とは何か、そんな問いを毎秒考え続けて、私は答えきれず、ここに至るわけです。」

先刻降った雨が作った水たまりに雲の多い空と桜の花弁が沈むまいと浮く。

桜は儚い儚いと評されるが、それは人間のかなり失礼な第一印象なのかもしれない。

そろそろソメイ・ヨシノさんから侮辱罪で訴えられそうだ。


「何が嘘かさえも分かってない、そんな私だから鼻の折れたピノキオなのでしょうね。」


そう言ってピノキオは人形らしくぐったりと倒れる。

そう言われてみれば、確かに巧い皮肉だ。

嘘しか言っていないのなら、真実を観測するものは居ない。つまり、嘘を嘘と罰する人間が居ないのだから伸びる鼻もないのだ。

しかし、最後の一言は12時を回っていたのだから、彼はルール違反をしたか真実を語ったのかもしれない。『神のみぞ知る』わけだが。


そんな事を考えながら、私は水たまりを踏んだ。

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