1月 俗物的な依り代
いつどうやって片付けきったのかわからないクリスマスの装飾たちは、おそらく店先に飾られる大きな鏡餅の下に誤魔化すように入れられているのではないだろうか。
そこそこ積もった雪と、静かながらに賑やかな街の音に子供のはしゃぐ声。
寝る前にあれほどはしゃいでいたのにもかかわらず、朝になればまた走り回る子供の世話をする親というものは全く大変な『お仕事』なのだと思う。
サンタクロースと違って、年365日無給で無休なのだが。
はて、愛情とは理解し難くも凄いものだと私は感心した。
「そう言いつつも、雪の中で神社に来るのだから貴方も人間ですね。」
「食って寝る私を人間かと疑うのは哲学者が許しても生物学者が許さないのでは?」
神社の鳥居に小さく寄りかかった着物を着た折り紙のやっこさんは、姿と違ってハキハキと物を言う。
というか、やっこさんは袴を着ている姿なのだから、これはずいぶんと厚着で参拝に来ているのではないだろうか?
「やっこさんは依り代だと誰かが説きました。着物は正月だと誰かが語りました。私がこのような不条理に立たされているのも、誰かが説いて語ったのでしょう。騙ったとも言えます。」
神社の鳥居に寄りかかってみると、あまりの冷たさに一度手を引いた。
「……その心は?」
「私は半分よくできる人間でした。言われた仕事こそできますが、それ以上はありません。」
社会人としては申し分ないではないか。
いや、社会人としては、申し分ないではないか。
「『社会人としては』確かに申し分はありません。しかし人間としては削られる一方です。」
社会人という一つで皮肉になる単語をここまでふんだんに盛り込んだお話もなかろう。
「私は成績の数字が良いからと次々出世を繰り返しました。そのたびに求められるのがリーダーシップ。私にそんな高度な技術はありません。毎日『出来ない』と『責任』に殴られながら、体裁だけでも保ってきました。」
朝方まで続いた雪曇りは、気づけばよく晴れていた。
あたりの雪は、ゆっくりと消え始めていた。
「体裁だけを保っていた、これは信仰とよく似ていますね。もっとも、私は俗物的なものでしたが。」
終始動きが無いのにもかかわらず、不思議と「死にきっていない」と思えた目の前のやっこさんは、これまた不思議に「ついに尽きた」と思えた。
やはり仕事はできるような人間だったのだろう。
自ら化かされた姿とその不気味な皮肉に気付いて、受け入れていたのだから優秀だ。
やっこさんの隣で無惨に溶けてゆく雪だるまを横目に、私は賽銭箱に10円を投げ入れ、「世界一の幸運を持つ人間になりたい」であることを願った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます