嘘つきのパラドックス

夕凪あゆ

第1話

誰かを「嘘つき」と呼ぶたびに

私は、その人の全てを

偽りだと決めつけてしまう

言葉の上では簡単でも

心の奥では、胸がひりつく


だってその人の声は確かに震えていたから。

涙は確かに温かく

笑顔は、一瞬でも本物だった

それを偽りと呼べるだろうか


私たちは安全な場所から

ラベルを貼りたがる

「これは嘘」「これは真実」と

世界を整理しようとする

でもその刃物は

相手だけでなく、私たちの想像力を切り裂く


嘘はただの影だ

人の存在を覆い隠す雲ではない

その影の奥には

まだ光がある

まだ温度がある

まだ、信じられる瞬間がある


だから、どうか

存在ごと嘘にしないで

その矛盾の中に生きる

脆くて、傷つきやすくて

それでも確かに呼吸する

誰かがいることを、忘れないでほしい


私たちは嘘と真実の間で揺れる

でも揺れながらも

その人を丸ごと抱きしめることはできる

たとえ言葉が矛盾しても

たとえ論理が絡まっても

その人の存在そのものは、

決して消えることはないのだから

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嘘つきのパラドックス 夕凪あゆ @Ayu1030

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