親友と親友の妹の身体が入れ替わってしまった!?
間咲正樹
親友と親友の妹の身体が入れ替わってしまった!?
「おっす、
「よっ」
豪快に玄関を開けて、
相変わらずこいつはいつも人生楽しそうだな。
こういうところは中学の頃から変わってない。
春人とは中学の時にソフトテニス部でダブルスのペアを組んで以来、高校のソフトテニス部に入った今でもずっとペアだ。
性格は真逆なのだが不思議と馬が合い、部活が休みの今日も、二人で『ニーソックスボクサー』という漫画が原作の実写映画を観に行くために、春人の家まで迎えに来たところだ。
「いやあ、楽しみだな、映画!」
「そうだな」
俺も春人も原作のニーソックスボクサーの大ファンなので、この日を楽しみにしてきた。
心が躍るぜ。
「グングンサンダーエボリューション!」
春人が右拳を天高く掲げながら、ドヤ顔でそう言った。
「……何だそれ」
「ふっふっふ、グングンサンダーは日々進化してるんだよ。ついさっき、グングンサンダーエボリューションにバージョンアップしたのさ!」
「……お前のそういうところ、ホントスゲーと思うぜ」
「だろだろ!」
グングンサンダーは春人オリジナルのクソ寒ギャグで、部活中も事あるごとにこれを披露しては、場の空気を凍りつかせている。
だというのに本人はノーダメであっけらかんとしているので、余程強靭なメンタルを持っているのだろう。
人前で話すのが苦手な俺には、何とも羨ましい限りだ。
……春人みたいになりたいとは思わないが。
「お兄ちゃん、財布忘れてるよ!」
「おっと、サンキュー
その時だった。
春人の一個下の妹の秋菜ちゃんが、財布を持って慌てて出て来た。
「もう、お兄ちゃんはホント抜けてるんだから」
「へへへっ、器が大きいと言ってくれよ」
「英司くん、こんな兄だけど、今日もお世話よろしくね」
「うん、了解」
秋菜ちゃんはペコリと丁寧に頭を下げた。
今日の秋菜ちゃんは、花柄の青いワンピースという、何とも清楚感溢れる出で立ちだった。
顔は春人にそっくりなのに、相変わらず纏う雰囲気は真逆だ。
この春高校に入学した秋菜ちゃんは、俺たちと同じくソフトテニス部に入部したのだが、早速男子部員の何人かから告白されたらしい(何故か全員断ったらしいが)。
子どもの頃は性格も春人似で、どちらかというとボーイッシュな感じだったのに、ここ数年でめっきり大人の女性っぽくなったもんなぁ……。
「? 英司くん、私の顔に何か付いてる?」
「あ、ああ、いや、何でもないよ」
だが何か、上手く言えないけど、今日の秋菜ちゃんは違和感があるな。
はて、何だろう?
「では、私はこれで」
再度ペコリと頭を下げて、家に戻ろうとする秋菜ちゃん。
――その時だった。
「きゃっ!?」
「っ!?」
落ちていた小石を踏んでしまったらしく、秋菜ちゃんは後ろによろけた。
あ、危ないッ!
「秋菜ッ! ぐえっ」
「ぎゃっ」
「っ!?!?」
が、そんな秋菜ちゃんを咄嗟に支えようとして、逆に春人と秋菜ちゃんの頭が思い切りぶつかってしまった。
オイイイイイ!?!?
そのまま二人は地面に倒れ込んだ。
「だ、大丈夫か、二人とも!?」
「う、うーん、いててて……、まったく、抜けてるのはお前もだろ、
「……え?」
起き上がった
「わ、私はたまたまだもん。
「――!」
今度は
こ、これは……!?
「あ、あれ!? なんで目の前に俺がいるんだ!?」
「そんな!? なんで私が……!?」
「も、もしかして俺たち……」
「私たち……」
「「入れ替わってるー!?!?」」
えーーー!?!?!?
「あっはっは、いやあ、こういうこと、実際あるもんなんだなあ」
「もう! どうしてお兄ちゃんはそんな平気な顔してるのよ!」
何だこの状況は……。
秋菜ちゃんが春人っぽい喋り方をしていて、春人が秋菜ちゃんっぽい喋り方をしている。
今にも脳がバグりそうだ……。
「まあでもこういうのは、一晩寝て起きたら元に戻ってるってのが定番だろ? だったらそんな焦る必要はねーさ。さっ、英司、早く映画館行こうぜ。映画が始まっちまう」
「なっ!?」
「お兄ちゃん!?」
春人(身体は秋菜ちゃん)は、俺の手を引いてスタスタと歩き出す。
こいつのメンタルはオリハルコン製か!?
そんな俺たちのことを、秋菜ちゃん(身体は春人)は呆然と見送っていた。
「なあ春人、ホントによかったのか、秋菜ちゃんを置いてきちゃって」
「ん? だってこうなっちまったもんはどーしよーもねーだろ? 俺は気にしてもしょーがねーことは気にしない主義だ」
「まあ、お前はそうかもしれないけどよ」
今頃秋菜ちゃんはどんな気持ちでいるのか想像すると、不憫でならない。
「あと、あまりベタベタくっつくなよ、お前……」
春人は普段からスキンシップが過剰なやつだが、今日もいつものノリで俺にくっついてくるので、秋菜ちゃんのたわわに実ったマスクメロンが腕に当たって、気が気じゃない。
「おっ、何だ英司、もしかしてお前、照れてんのかー?」
「そ、そんなんじゃねーよ!」
誰が男であるお前に照れるかよ!
「じゃあ別に構わねーだろ?」
「……ま、まあな」
くっ、ゴメンよ秋菜ちゃん!
これは春人がやってることだから!
俺には微塵も、やましい気持ちはないから……!
「オイ、あの子、メッチャ可愛くね?」
「ホントだ。クソー、あの彼氏、あんな可愛い子とデートかよ。許せねーな」
「――!」
通りすがりの男性二人組が、そんなことをボソッと呟いた。
か、彼氏!? デート!?
……ま、まあそうか。傍から見たら、そうなるのか。
――実際は男友達と映画観に行こうとしてるだけだけどねッ!
「へへへっ、ひょっとして英司、ドキドキしてんのか?」
春人が秋菜ちゃんの顔で、ニヤニヤした笑みを向けてくる。
「バッ、バカ! してねーよ!」
「んー、そっかそっかー」
クソッ、静まれ俺の心臓……!!
「いやあ、メッチャ面白かったな、映画」
「そ、そうだな」
嘘だ。
実際は内容はほとんど覚えてない。
春人があんなこと言うから、まるで秋菜ちゃんとデートしてるみたいな感覚になって、とても映画に集中できる状況じゃなかった。
「じゃあさ、次は久しぶりにあそこ行こーぜ」
「え?」
そして春人が指差したのは、中学の時によく行った市民プールだった。
プール!?!?!?
「いや、俺、水着持ってねーし……」
「俺もだよ。でもあそこ、レンタル水着あったはずだから問題ねーって」
他のことでたくさん問題があると思うんですがそれは……。
「まあまあ、とにかく行こーぜ!」
「オ、オイ!」
春人に思い切り腕に抱きつかれ、そのまま市民プールに引きずられる。
だからそういうことすると、マスクメロンが腕に当たるんだってッ!
「うほほー、懐かしいなー、英司!」
「そ、そうだな」
プールサイドに現れた春人は、何と赤のビキニを着ていた。
マジかよこいつ!?
「お前よく、そんなの一人で着れたな……」
「あっ? 別にこんなの、適当にやったら着れたぜ?」
「……お前の才能が羨ましいよ」
ゴメン、今のは噓だ。
ホントは別に羨ましくはない。
それにしても……。
「なんでよりにもよってビキニなんだよ」
「ん? だって可愛いだろこれ? ホレホレ、興奮するか、英司?」
「し、しねーよ!」
前屈みになった春人は、グラビアアイドルみたいなセクシーなポーズを決めた。
今にもマスクメロンが零れそうだ――。
うおおおおおい!?!?
秋菜ちゃんの身体でなにやってんだテメーは!?
「オ、オイ、あの子、メッチャスタイルよくないか?」
「ああ、しかも滅茶苦茶可愛いぞ……。どうする? 彼氏ヤるか?」
ヤるって何を!?
もしかして
だから俺は彼氏じゃねーってばよ!!!
そしてこいつは、中身は男なんだよッ!!!
「よっしゃー、ジャンジャン泳ごうぜー!」
「ちょっ!? うわぁ!?」
後ろから思い切り春人に抱きつかれ、そのまま一緒にプールに落とされた。
俺の背中に、何かとても柔らかいものが当たっているうううううう!!!!!
「あっはっは、楽しいなー、英司!」
「俺は全然楽しくない!」
もうマジで勘弁してくれ!!
「……中学の時はさ、よく秋菜と三人で、このプール来たよな」
「あ? な、何だよ急に」
確かに昔は、よく三人で遊び回ってたっけ。
俺と春人が先に高校に入学してからは、何となく秋菜ちゃんとは疎遠になってしまったが。
だから中学の時は文芸部だった秋菜ちゃんが、高校では俺たちと同じソフトテニス部に入った時は、ちょっとだけまた昔みたいに戻れるかと期待したのも事実だ。
実際はソフトテニス部のアイドルになってしまった秋菜ちゃんとは、むしろ前以上に壁が出来てしまったが……。
「そぉれそれ!」
「うわっぷ!?」
春人が思い切り水を掛けてきた。
こ、この野郎!
「やりやがったな、この!」
「あばっぷ!」
お返しとばかりに、俺も春人に水をブッ掛ける。
「あっはっは、それそれー!」
「このこのぉ!」
俺と春人は、お互い全力で水を掛け合った。
周りから「リア充爆発しろ」という呪いの言葉が聞こえてきたが、断じて俺はリア充ではないッ!
「はぁー、ラムネ美味ぇ」
プールからの帰り道。
コンビニでラムネを買った俺たちは、近所の人気のない公園のベンチで、沈みゆく夕陽をぼんやりと眺めていた。
疲れた身体にラムネの炭酸が沁みる。
思えばこの公園でも、昔はよく三人で遊んだものだ。
「どうだった? 楽しかったか、今日は?」
「?」
不意に春人がそんなことを訊いてきた。
「どうしたんだよ改まって。気持ち悪いな」
「いやあ、俺たちが高校入ってから、すっかりお前と秋菜、溝が出来ちまったじゃん? だから久しぶりにこうして秋菜と遊べて、お前も楽しかったんじゃねーかなと思ってさ」
「……」
春人……。
「でも、身体は秋菜ちゃんでも、中身はお前なんだから、秋菜ちゃんと遊んだ気はしねーよ」
「あっはっは、そりゃそーか」
「……それに」
「ん?」
「……俺と秋菜ちゃんとじゃ、とてもじゃねーけど人としてのランクが違いすぎる」
片やソフトテニス部のアイドル。
片やただの凡人。
一緒にいていい資格なんかねーんだ。
「そんなことねーよ!」
「――! 春人……」
春人がいつになく真剣な表情で、俺の腕を掴んでくる。
「何だよ人としてのランクって!? そんなんお前が勝手に決めてるだけじゃねーか!」
「……!」
「ランクなんか気にして生きてたって、楽しくなんかねーだろ!? 気にしてもしょーがねーことは気にすんなよ!」
「……」
春人……。
お前はやっぱ、スゲーやつだよ。
「……それによ」
「……?」
「秋菜は多分……お前のこと好きだぜ」
「っ!!?」
春人は頬を染めながら、目を逸らしてそう言った。
春人!?!?!?
「い、いやいやいやいや、それはないだろ!? 有り得ないって!」
「いや、兄である俺にはわかる。――秋菜はお前に惚れてる」
「ほ、惚れ……!?」
バカな……!?
俺みたいな何の取り柄もない男に、パーフェクトガールの秋菜ちゃんが……!?
「……お前はどうなんだよ?」
「――!」
「好きなんだろ? 秋菜のこと」
「い、いや、あの、その……」
うおおおおおおおおお!!!!
確かに好きだけど!!!!
実はずっと秋菜ちゃんのこと好きだったけど!!!!
誰にも言ったことないのに、
「だったら勇気出して、秋菜に告っちゃえって! 絶対上手くいくからさ!」
春人は俺の肩をパシンと叩いてきた。
いや、絶対はないだろ……。
秋菜ちゃんが俺のことを好きだっていうのは、あくまでお前の憶測に過ぎないんだから。
「上手くいくように、俺が元気を出させてやるよ! ほれ、グングンサンダー!」
春人が右拳を天高く掲げながら、ドヤ顔でそう言った。
――!!!
この瞬間、俺の中で全ての点と点が繋がった気がした。
「……グングンサンダーエボリューションじゃないのか?」
「は? 何だよそれ?」
……やっぱり。
「……
「えっ!?!?」
思えば最初から違和感はあったんだ。
春人の財布を届けに来ただけの秋菜ちゃんは、何故か
まるで最初から出掛ける予定があったみたいに。
「君はあの場面にいなかったから知らないのも無理はないけど、今日グングンサンダーは、グングンサンダーエボリューションにバージョンアップしたんだよ」
「そ、そんな!?」
途中までは完璧に騙されてたけど、最後の最後で墓穴を掘ったね。
これなら男なのにビキニの水着をすんなり着れたことにも、説明がつく。
だって最初から、
「ゴ、ゴメンなさい! 騙すつもりはなかったの……! でも……」
「うん、大丈夫、わかってるよ、秋菜ちゃん」
「え、英司くん……」
ここまでされたなら、流石に鈍感な俺でも気付く。
秋菜ちゃんとの思い出の場所を巡ったのも、つまりはそういうことだろう。
「今まで勇気が持てなくて、ずっと言えなくてごめん。――俺は、秋菜ちゃんのことが好きだ。どうか俺と、付き合ってほしい」
「英司くん……!」
途端、秋菜ちゃんの宝石みたいに綺麗な瞳が潤んだ。
「わ、私も英司くんのことが好き!! 大大大好きッ!!」
秋菜ちゃんにギュッと抱きつかれる。
俺はそんな秋菜ちゃんを、そっと抱きしめ返す。
「ゴメンな、勝手に壁を作っちゃって」
「もう、ホントだよ! 私、すっごく寂しかったんだから! せっかくソフトテニス部に入ったのに、全然話し掛けてくれないし!」
「いや、それは、その……」
でもあれだけ高嶺の花になっちゃうと、どうしても、ね……。
「……ゴメン」
「……じゃあ、キスしてくれたら、許してあげる」
「――!!」
秋菜ちゃんはそっと目をつぶり、プルンとした唇を向けてきた。
……くっ!
「あ、秋菜ちゃん」
秋菜ちゃんの両肩に手を置き、俺も目をつぶる。
そして徐々に、唇を――。
「ぶえっくしょんッ!!」
「「――!?!?」」
その時だった。
近くの茂みの中から、盛大なくしゃみが聞こえてきた。
こ、この声は!?
「お兄ちゃん!? なんでお兄ちゃんがそんなとこにいるのよッ!?」
案の定、そこにいたのは春人であった。
「い、いやあ、やっぱ大事な親友と妹の行く末は気になるじゃん? だから、さ」
「だからって、覗き見するとか、マジサイテー!!」
それには激しく同意だよ、秋菜ちゃん。
「もう、絶対許さないからねッ!」
「あっはっは、退散退さーん」
物凄い剣幕で追い掛ける秋菜ちゃんと、ヘラヘラしながら逃げる春人。
「妹をよろしくな、未来の弟よー」
「っ!?」
去り際にそんなことを言われた。
そうか、俺と秋菜ちゃんが結婚したら、春人が義理のお兄さんになるのか……。
……それはちょっとだけ、複雑な気分だな。
親友と親友の妹の身体が入れ替わってしまった!? 間咲正樹 @masaki69masaki
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