第8話:護衛依頼 その3

 護衛依頼を受けた俺達。

 依頼人の要望での寄り道で鰻を取る事になり川で釣り糸を垂らす。


 川の見回りをしている地元の冒険者のお兄さんが来たので割符は見せた。


 「何だ、ウィード先生のお連れさんか♪」

 「背が伸びたねえ、ブリッツ君は♪」


 革鎧にロングソードで武装した冒険者のお兄さん。

 ブリッツさんと言う方で、どうやらウィードさんの教え子らしい。


 「まさか先生と会うとはな、護衛の君らも釣果を祈るぜ♪」


 ブリッツさんは立ち去っていった。


 「お、ご主人♪ 引いてるっすよ♪」

 「よし、おりゃ!」

 「確保ですわ♪」

 「鰻一匹ゲットっす♪」


 俺が一匹目を釣り上げたのを皮切りに、皆で合計十匹ほど釣れたのであった。


 「殿、湖の方に何やら怪しい気配が?」


 サミダレさんの声を聞き、湖を見る。


 「ちょ、何か波打ってますよ?」

 「まさか、伝説の怪物クロッシーか?」


 チカゲが驚き、ウィードさんが恐れおののく。


 湖から飛び出したのは、黒い巨大ウナギであった。


 「で、でかすぎっすよ~~!」

 「あら、ヌシでしょうか?」

 「サミダレさん、お願いします!」

 「お任せあれ!」


 俺は巨大な鯉に変身したサミダレさんの背に乗り、敵へと突撃する。

 巨大ウナギ、ジャイアントイールはこちらを睨み頭を上げて襲い掛かった。


 「何の、マホロバ妖刀流・一刀両断!」


 俺はサミダレさんを踏み台にしてジャンプ。

 大上段に掲げた愛刀の日吉丸を、空からの重圧と己の重さを加えて振り下ろす。

 ジャイアントイールの首は斬り落とされた。


 落下しつつ納刀し、地面に着地。

 鰻の頭は空中にアイテムボックス空間を開けて回収。

 巨大な鯉の姿のままのミダレさんに目を向ける。


 『後始末はお任せあれですわ♪』


 サミダレさんが大口を開けて、ジャイアントイールの骸を吸い込み喰う。

 まさかのランダムエンカウントであった。


 「さっきはすごかったっすね、ご主人♪」

 「大鰻の残りはサミダレさんに食べられてしまったがな♪」

 「まあまあ美味しかったですわ♪」

 「うん、君達はすごいなあ」


 俺達のやり取りにウィードさんが呆れる。


 ウィードさんに先導されつつ、森の入り口に辿り着いた。


 「森が城壁みたいっすね、ご主人!」

 「ああ、見張りの兵達は何か目が険しくないか?」

 「私達、真っ当な冒険者ですわよね?」

 「う~ん、私がいるからどうにかなるはずですが?」


 入り口前で立ち止まっていると、前方から白い鎧のエルフの騎士達が現れる。

 騎士達が止まり全員が下馬する。

 騎士の代表らしき金髪碧眼で長い髪の女性のエルフが前に出る。


 「お久しぶりです兄上、護衛の冒険者諸君もご苦労であった」


 偉い人っぽいので俺達は頭を下げて礼をする。


 「うむ、異種族にしては礼儀正しいな。 私はフィーナ、騎士団の団長だ♪」


 フィーナさんが名乗る、まあ俺達は冒険者のプレートを見せて自己紹介は省いた。


 「兄上と皆さんを我が家へご案内いたします♪」


 フィーナさんが告げる。


 「あれ、森の中でも馬が平気っすよ?」

 「そういやそうだな、花粉症とか平気なのか?」

 「馬は入れないと聞いたのですが」


 俺達は森の中で生きる馬が気になった。


 「ここの馬達は、外の物とは違い妖精馬と言って特殊なんです♪」


 ウィードさんが教えてくれる、そう言う物か。


 俺達はフィーナさんに先導されて歩て行くと、森の中に大きな茶色い壁が見えた。


 「壁の中が街なんですね、何か切り株みたいだな?」

 「そんなイメージっすねご主人」

 「バームクーヘンと言うお菓子みたいですわね?」

 「そう、切り株の街なんて呼び名もあるんですよ♪」


 俺達は珍妙だなと思いながら街へと入る。


 商店街や住宅街に区分けされているとウィードさんから聞かされる。


 「キノコみたいなメルヘンな形のお店とかが多いっすね?」

 「珍しいお酒はないのでしょうか? 帰りに買って行きたいです♪」

 「そうだね、彩があるな」


 俺達がお上りさん丸出しで歩くのを見て、フィーナさんが微笑む。

 そんなこんなで俺達は、赤いキノコが三個くっついた感じの御屋敷に着く。


 「ここが私の実家です♪ まずは皆さん、ありがとうございました♪」


 ウィードさんからお礼を言われる。


 「皆さんも我が家へどうぞ、私は仕事に戻ります」


 仕事に戻るフィーナさんにも勧められてお邪魔した。

 ウィードさんはご家族との話し合い、俺達は待機部屋でお茶。


 うん、サロンって感じの白壁で絨毯敷きのお高い洋間だ。


 「このクッキー、美味しいっすねご主人♪」


 チカゲが可愛らしく黒い犬耳を動かしクッキーを頬張る。


 「紅茶も特産品だそうですね、私にはよくわかりませんが」


 サミダレさんは姿勢よくカップを持ちながら呟く。


 「大丈夫、俺も良くわからない」


 洋風のマナーもよくわからない、白磁のカップが高そうで怖い。

 洋の東西を問わず、お高い品で囲まれた所は苦手だ。

 後は帰りの護衛を全うするだけである。


 「後は、ウィードさんがどう話を纏めるかっすよね?」

 「商売のお話が、上手く行くと良いですわね」

 「こう言う安全地帯での待機の時間が、護衛は面倒なんだ」


 のんびり雑談をして語り合う。


 「皆さん、無事に話を取り付けられました♪」


 ドアが開きウィードさんが笑顔で登場。

 明日は、スカウトしたい家具職人に会いに行くとの事。


 夕食はフィーナさんも交えてご相伴に預かった。


 「ようこそ東洋の客人よ、ご覧あれ♪」


 長いテーブルの上座で自慢する金髪エルフの老人。

 ウィードさんのお祖父さんでご当主のリーフさん。


 「鰻尽くしっす♪」

 「えっと、無茶苦茶東洋通ですね!」

 「マホロバのウナギ料理ですわ!」


 うな重に肝吸いに、ゼリー寄席ではなく茶色い煮凝り。

 ここは西洋のエルフの街だよな?


 「我が家は東洋通でして、私も東洋との貿易をしております♪」


 ウィードさんと変わらない貴族服の美青年、お父上のソーンさん。


 「この地は東洋とは縁が深く、マホロバの皇帝から桜が寄贈されてるのです」

 「それは知らなかったです、凄い」


 フィーナさんの言葉に感心する。

 

 俺達は豪華な食事にありつけて休めた。

 翌日、俺達はウィードさんについて行き同じ森にあるドワーフ村に行く。


 「ログハウスが多いっすね♪」

 「ドワーフは山のイメージがありましたわ!」

 「山の方に行くと、ドワーフの都市があるってよ」


 意外と商店が並び異種族の客もいる村を歩き、目的の店へ。

 テラスには商品らしい椅子などが置かれていた。


 「おう、ウィードか♪」


 カウンターにいたツナギ姿の赤毛のドワーフの店主が声をかけて来た。


 「やあバジル、久しぶり♪」


 ウィードさんもバジルさんへ挨拶する。

 二人は早速、本題に入る。


 「君の腕をマホロバでも振るってみないか?」

 「技術指導や外注なら構わん、俺はここを出る気はない」

 「しかたない、じゃあ業務提携と行こう」


 引き抜きはできなかったが、協力は取り付けたと言う結果になった。


 「これで後はルーキーズポートまで戻るだけっすね♪」

 「ああ、帰って報酬を貰おう」

 「お土産を忘れずに買って帰りましょう♪」


 ウィードさんの用事が終わった。

 

 「それでは、このままルーキーズポートへ帰りましょう」

 「え、ご家族に挨拶は良いんですか?」


 俺の言葉に時間はあるからと微笑むウィードさん。

 依頼人に従い、俺達は彼の帰りの護衛をして帰ったのであった。

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