第7話:護衛依頼 その2
エルフの材木問屋のウィードさんを護衛する旅に出た俺達。
最初に訪れた宿場町で、トロール退治をする事になった。
「しかし、昨日の皆さんの腕前は流石でしたねえ♪」
呑気に微笑むウィードさん、日程は大丈夫なのだろうか?
「ひゃっほ~~~♪ かっ飛ばすっすよ~~♪」
「チカゲ、レンタル馬車は大事に扱ってくれ~~!」
「ガタガタ揺れまくりですわ~!」
「元気なお嬢さんだ、がは!」
チカゲが御者席でヒャッハーと、馬を走らせる。
公共の乗り物を借りてるんだから、扱いは丁寧に頼みたい。
俺達は遅れを取り戻すべく、街道を馬車で走る。
トロール退治の報酬は、宿代で消えた。
内訳は宿代が三割、サミダレさんの酒代が七割だった。
なので、今回の稼ぎはウィードさんの依頼料だけが頼りだ。
往路のゴールは、エルフの森林都市フォレストフィールド。
そこへ辿り着くまでの通過点は二つ。
昨日の宿場町ホースステイ、その次は湖畔都市ムーンレイク。
「ご主人♪ でっかい三日月型の湖が見えたっす~♪」
チカゲがはしゃぐ。
「むむ! 湖ですか、ちょっと主と戦って良いですか殿?」
「止めて下さい」
「わふ? 一旦、ストップっす! ご主人、防御符を!」
チカゲが馬車を急停止と同時に、俺は馬車全体を魔法で守る。
茂みから飛んで来た矢の雨を、俺の魔法が弾いた。
「畜生、矢が駄目なら直接襲え!」
「「ヒャッハ~~!」」
道の両脇から、革鎧を着たガラの悪い男達が現れた。
弓や短剣で武装した、明らかに野盗の類だった。
「ご主人、野盗っす!」
「よし、俺が片付ける!」
俺は馬車から飛び出し空中に躍り出た。
「な、ガキが飛んだ?」
「撃て、撃て!」
「的だぜ!」
野盗達が俺を狙い、矢を射って来る。
短剣を持った他の奴らは様子見だな。
「旋風符、からの悪夢符!」
俺はまず風の魔法で矢を弾き落とし、続いて野盗達にあ悪夢を見せる。
「「「うぎゃ~~~~っ!」」」
矢は全て地に落ちて、野盗達は泡を吹いて気を失った。
「よし、ついでにこいつらの手足を固めるか。 石化符!」
俺は倒した野盗達全員の手足を石で固めて拘束する。
「ご主人、野盗共が全員人間バーベル状態っすよ?」
「罪人の拘束は大事ですが、手心も覚えて下さいまし」
チカゲとサミダレさんが引く。
「大丈夫、捕縛する兵士が来る頃には解けるから」
俺はランダムエンカウントで出た野盗達を、生かして拘束した。
後は街へ報告すれば良いだけだ。
俺達は再び馬車を走らせ、街へと到着した。
入り口で馬車を返却し、衛兵に道中で野盗を捕獲しておいたと教える。
兵士達が連中を捕まえに街を出たのと入れ替わりに、俺達は街へと入る。
「ルーキーズポートと似た西洋の街並みですわね」
「でも、月の看板が多いっすよ特に三日月?」
「そうだなあ、ワッフルも三日月型だし」
「ええ、ここの三日月ワッフルは私も好きで♪」
街の通りを歩きながら語り合う。
ウィードさんはこの街で冒険者として出発し、マホロバへと渡ったらしい。
「歴史ありっすねえ♪」
「ええ、興味深いですわ♪」
「そうだな、クレッセント湖が観光名所とか」
「皆さんのお陰で、久しぶりに来れましたよ♪」
晴れた昼間の空の下、俺達は和やかに語り合う。
街の中なら、大したトラブルは起きないだろう。
「皆さん、宜しければクレッセント湖に立ち寄りませんか♪」
ウィードさんが寄り道をしたいと言い出す。
フォレストフィールドとの間だからと言うが、取引相手を待たせて良いのか?
「いやあ、取引したいのは私の実家で皆クレッセント湖のウナギが好物でして♪」
「ああ、手土産で話をリードしたいと♪」
相手の好物を手土産にと言うのはわかった。
「ウィードさん、そこのウナギって勝手に取っちゃ駄目すよね?」
チカゲが真面目な顔で質問する。
「ええ、こちらの冒険者ギルドで一日分の漁業権を買えますからご安心を♪」
ウィードさんが微笑む。
「冒険者ギルド、手広い仕事してるんですのね?」
「うん、石を投げればギルドに当たるって言う位に」
冒険者ギルドの手の長さと広さに、俺は背筋が寒くなった。
「ご主人、鰻取りっすよ~♪」
「チカゲ、鰻大好きだもんな」
チカゲが喜ぶ。
「蒲焼きに肝の吸い物に、お酒が進みますわ~♪」
「サミダレさん、仕事だからね?」
ヤバイ、仲間達が護衛より鰻に目がくらんでいる。
護衛は気のゆるみが駄目なんだぞ?
俺も鰻は好きだけどさ。
「ウナギのゲイザーパイやゼリー包みは絶品ですよ、皆さん♪」
何より護衛対象自体が鰻に夢中だ。
そりゃ、鰻を食う文化のあるマホロバに嵌るよな。
俺達は、この街の冒険者ギルドを訪れる。
「ようこそ、ムーンレイク支部へ♪」
受付の男性が明るく応対してくれた。
何か、癖のあるパーマカットのお兄さんだ。
ギルドの受付で代金を払い、一日漁業権の割符を人数分貰う。
「行くっすよ、鰻取り♪」
ギルドを出たチカゲが気合を入れる。
釣り道具一式を頭上に掲げて叫ぶ姿は楽しそうだ。
「まあ、ほどほどに確保しような?」
「乱獲は駄目ですわよ? 生態系は守らねばなりませんわ!」
水場を納める領主の娘らしい顔付きで語るサミダレさん。
「そうっすね、絶滅したら食べられないっすもんね♪」
チカゲが納得する。
俺達は街を出て、徒歩でクレッセント湖を目指した。
ムーンレイクからフォレストフィールドは、馬車が使えない。
「昔から、森の魔力に馬の調子が悪くなるみたいなんだ」
「花粉も原因なんじゃないでしょうか?」
「ありうるね、馬が木々の魔素と花粉を同時に吸い込むか」
「花粉症って、ご存じです?」
「ああ、鼻水やくしゃみが酷いよね僕らは平気だけど」
ウィードさんがエルフは花粉症にならないとか言い出した。
「羨ましいっすね、花粉症にならないって」
「龍族もなると言うのに、エルフ恐るべしですわ!」
「いや、皆違って皆良いだよ♪」
ウィードさんは気にしない、メンタルが強いな。
野道を進めば見えて来る、三日月型の水が綺麗な湖。
「ところで、釣りは初心者なんですが俺達?」
「私は、直に入って狩りますので」
「遊びでやるくらいっす」
「ああ、任せてくれ♪ 子供の頃から釣っている♪」
ウィードさんの年長者ムーブが光る。
学問所の先生の様な気さくさで、俺達に釣りの講義を始めてくれた。
「あ、こっちに川が流れてるっす♪」
「川は良いですわね、泳ぎたくなります♪」
「鰻は川の方で釣るのが良いのか、知らなかった」
ウィードさんの釣りスポットは、湖から出る川だった。
さあ、手土産と俺達が食う鰻取りの始まりだ。
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