3人で楽しく生きてみよう

わたぬき

日常と思いきや

 友人からの誘いも断り、約束相手たちの職場や大学、高校からちょうど真ん中くらいの位置にある駅に併設されたファーストフード店に入る。僕が一番最初だろうからどこに座ったものかと店内を見回せば、今日は仕事だから遅くなると宣言していた彼氏が優雅にハンバーガーにかぶりついていた。


「なんでお前の方が早いんだよ。今日平日だぞ」


「逆でぇーす。社会人には有給ってものがあるんすよセンパイ。」


「久々に放課後遊ぶってだけで有給使ったのかよ。馬鹿なのか……?」


「いや、流石に半休っす。午前はちゃんと仕事してきましたよ。」


「だとしてもだろ。……僕が把握してないだけでこの後買い物にでも行くことになってる?だったら一回帰って制服から着替えたいんだけど。」


「高校生ってわかっちゃうと、俺らがいても補導される可能性ありますしねぇ。」


「あれは逆にお前らがいたから返って目立ってたんだよ」


「まぁま、とりあえず注文してきてくださいよ。好きなの買ってきていいんで。」


「お前はその僕たちに貢ぐ癖をさっさと治せ。……今は、ありがたく奢られてやるけど。」


「はいはい、出世払いでお願いしまーす。」


「どうせ受け取らないくせに何言ってんだ。」


 片手で鞄を漁り、投げ渡してきた明らかに高級そうで使い込まれている財布を受け取り、学生が列を作っているレジへ並びつつスマホでメニューを眺める。もう1人からはまだ連絡がないから自分の分だけでいいだろう。

 ついでに言えばあいつの金なので値段を気にする必要がない。一度、バイトしようかという話が出た時「まじ俺が全部出すんで。先輩は勉強楽しめる稀有な才能が、お前は今楽しめるよう生きてるだけで十分偉いんだから。まじ、ほんと金足りないなら俺が頑張るんで。」と凄い形相で言われてからこういうことが増えた。ありがたく借りているが、使わせてしまった金額は覚えているのでいつか2人を連れて高いレストランにでも行こう。値段で誠意が伝わるなんて思わないが、わかりやすい指標ではあるだろうし。

 っていうか、流されてこの後どこか行くのか聞きそびれたな。ちゃんと食事しに行くなら軽めに、いやでも3人の中で一番少食なあいつがセット頼んでるならそんな予定はないのか?あいつ馬鹿だからなんも考えず頼んでる可能性もあるが。考えていると、いつの間にか僕の番が来る。仕方ない、多かったらきた時に押し付けよう。


「店内でお召し上がりでしょうか?」


「はい。テリヤキバーガーのセットひとつ、ポテトでドリンクが、あー……」


 そうか、忘れてた。普通に烏龍茶にする気だったのに、ドリンクメニューの端に輝く追加50円でシェイク変更可能という文字が輝く。くそ、あいつ何飲んでた?ストロベリーシェイクなことにかけて僕もと言いたいが、違ったが最後「先輩は子供っすね笑笑」とか言われるのがオチだ。あの子が合流した後も今日中はずっと弄られる。


「…………白ぶどうスカッシュで。」


「以上でよろしいですか?」


「はい。あ、支払いは現金で……」


 日和った。完全に日和ってしまった。いやでもあいつに子供弄りされるくらいならこれでいい。口が甘い飲み物を欲してしまい咄嗟に出てしまったけど、あれは通常メニューだから何も言われる筋合いはない。

今度1人で来た時に頼むかぁと考えつつ、受け取り番号が表示されるモニターの下でぼんやりとしていると肩を叩かれる。振り向けば、大学帰りだからかいつもより控えめにメイクされた彼女が笑っていた。なんでお前も予定より早いんだよ。


「お疲れー」


「え、あ、お疲れ。早くない?」


「休講っちゃったんだもん。直前に。」


「普通に災難だな、体調不良?」


「遠くから来てる教授だから、人身事故で電車止まったのに巻き込まれたんだって。」


「災難とかいう次元じゃなかった。てかなんでこっち来たの、注文行きなよ」


「先輩から財布回収してけーって。あとレシート見せて」


「あぁ、そういう。レシートも?いいけど。」


「ありがとー。ちなみにこの後どこか行くとか聞いてる?」


「聞いてないけど、半休取るほど気合い入ってるっぽいしワンチャン何かある。」


「あっても面白いし、なくても面白いやつだ。はい、レシート返すね」


「どうも。って僕の番号呼ばれてるわ。先に戻って大丈夫?」


「大丈夫だし、先に食べててー」


「了解。」


 店員さんから商品が乗ったトレーを受け取り席に戻れば、既に食べ終わって手持ち無沙汰になったらしい馬鹿が机に蹲っていた。別にそれはいいんだけどここから僕含めて2枚トレーが来るのわかってないだろ。仕方なく机の下に収納されている長い足を蹴って起こした隙にトレーを置く。


「いったぁ。何するんすかセンパイ。」


「お前のせいで置き場がなかったからだよ馬鹿。もう食べ終わったの?」


「まだある……底に沈んだ短いしなポテがね……」


「あるっていうのか微妙なライン」


「物質的にはあるんすけどね、満足度的にはないのと一緒。」


「そんなこと言うなよ……っておい、僕のポテトだぞそれ。」


「揚げたてのほうがうめぇー」


「そりゃあそうだろ」


 買っていとっていこうが彼氏の金で買ったものだしなと、口だけで抗議するのにとどめてバーガーに手を伸ばす。本当なら戻ってくるまで待ちたいところだけど、かえって気にさせてしまうだろう。最近は期間限定に浮気してばかりだったから久しぶりだな、とかぶりつけば知り尽くしたテリヤキの味とマヨネーズ、レタスにパンが頭を埋め尽くしてくる。やはり定番商品は定番の良さがある……としみじみしていれば、彼氏が両肘をつ気、こっちを気持ち悪い目で見つめてくる。もう一度言う。気持ち悪い。


「うまいっすか?」


「そりゃうまいよ。普通のテリヤキバーガーだし。……まさか食べたことない?」


「流石にありますって。ね、センパイ。あいつが何注文してくるか当てましょーよ」


「うわむっず。好みに一貫性なさすぎて予想つかないんだよな。」


「だから当てた時気持ちいーんじゃないすか。当てた方は今日の車あいつの隣ってことで。」


「え、それだとお前助手席誰もいない状態で運転すんの?かわいそ」


「勝つんでいいんすよ。んーっと、俺の予想はー。あいつ今の期間限定食べてたっけな……それ次第だよな……。」


「気になるって言いながら定番品頼んでたことあったけど。」


「選択肢増やさないでくださいよ、先輩よりあいつとの付き合い短いんすから」


「たかが三日だろ。で、回答は?」


「倍ダブチのLセット。アイスティーとナゲットでターンエンド。」


「女子大学生の注文を当てるという意味では全てが間違ってるけど、あの子だからなぁ。」


「ぶっちゃけ腹減ってたらもっと食いそうっすからね。」


「僕と一緒でこの後の予定気にしてたから、そのくらいで止める気がするけどね。僕の予想はー、」


 倍ダブチはあり得そうなラインだよなぁ。今の期間限定って辛いやつじゃないし、僕と被らないようにテリヤキの線も薄そうだし。休講になってご機嫌だろうからそんな暴飲暴食もしなさそうなのが、あとこいつの金だし。いや、こんなん当たんないぞ?ここのメニュー何個あると思ってるんだ。別路線で安牌踏もう。


「ベーコンレタスチーズのセット。アイスティーストレートでナゲット、ってとこかな。」


「その心は」


「なんか一時期狂ったようにそればっか食べてた時期があったから好きなのかと。サイドは多分お前と同じ理由。あの子これしか頼まないし。」


「俺たちがポテト派だから態々別の頼むんすよね」


「そういうとこ気にしちゃう子だからね。」


「……なんのお話?」

 

「お前が何頼むかセンパイと予想してたんだよ」


「え、何それ。私毎回違うのに当てようとしてたの?」


「車の席順かけてね。で、何頼んだの。」


 こいつら馬鹿だ……という声が聞こえた気がしたけど無視して机に置かれたトレーを見れば、包み紙に入ったバーガーとナゲットの箱、ドリンクが見える。よし、流石にセット一つと言うところは外してない。もう片方の手は見えないが、財布を持ってるだけだろう。


「んーっと。海老のハンバーガーセット、バニラシェイクにナゲット。」


「「は!?」」


「え、そんな驚く……?」


「いやお前、いつもアイスティーだろ。そこは外さんと思ってたわ」


「あー、そう、か……?そうかも?今日は白ぶどうもシェイクも飲みたかったから。」


「……あ。だから僕のレシートを?」


「そうそう。シェイク頼んでたら白ぶどう頼もうかなって。実際は逆だったけど。あとはい、原さんにはこれ。」


「いちごシェイクじゃんナイスー。」


「もうそろそろ飲み干しそうだったから、別で頼んだんだよね。」


「片手隠してたのはそういうことか」


「反応は面白いんだけど、私も食べていい?」


「あ、そうじゃん。早く座ってください、冷めちゃいますよ。」


「うん、ありがとう椅子引いてくれて。」


「俺だってそのくらいできますけどー」


「1回でもやってから言え。」


「へいへい。」


「あー、おいしー。」


 僕たちが言い合っている間にバーガーにかぶりついているのを横目で見守りながら、僕が食べてる時と同じ視線をそっちに向けているバカの肩を叩く。


「ん?なんすか須須っさん。」


「勝負引き分けだし席順は止まるたびにじゃんけんってことにして、どこ行くの。今日遊んで、週末も空けとけって話しか僕たち聞いてないんだけど。」


「あれ、そうでしたっけ。ま、俺の仕事がやっと長期休み取れるくらい落ち着いたんで旅行でもいこうかと思っただけっすよ。」


「絶対うちの親から許可出ないと思うんですけど……」


「お前、そう言うのは僕もあかりさんも、親の許可とかがいるんだから早めに、」


「許可もらってまーす笑」


「お前ってやつは……どれだけ社会人の利点を使えば気が済むんだ。」


 こいつは普段おとなしいのに、仕事で忙しくなってくると大金を俺たちに使おうとする。しかもしれないうちに計画するものだからタチが悪い。色々考えてしまって行動に移せないあかりさんと、娯楽を後回しにしがちな僕のことを思ってなんだろうが、限度ってものがある。


「親御さんに許可取ってる時点で偉いでしょ。本当なら俺の家に3人で暮らしたいんすから。」


「原さんって謎に須須くんとうちの両親に信用されてるよね。」


「ま、あっちは俺のことお前ら2人の保護者兼友人として見てるってことっしょ。センパイのご両親はともかく、3人で付き合ってるなんて想像もつかんよなぁ。」


「なんで僕の両親はともかくなんだよ。多分教えたら驚くと思うけど。」


「驚くで終わって尊重してくれそうだもんね。」


「そんな感じ。ま、だから今日は明日からの旅行で入りそうなもの買って、一旦2人を家に送って、明日の朝9時に市駅って感じでよろしく頼みます。」


「いや、まず旅行先を教えろよ」


「ん?……温泉旅館とだけ言っとく。あとは内緒」


「わかった、須須くんこの人、半年前に私たちが、日帰り弾丸旅行連れてったの根に持ってるんだよ。」


「そう言う??変なところ気にするよなぁ。ま、今回は乗ってあげるけど。」


「サプライズなんだったら、ちゃんとエスコートしてくださいね?」


「そりゃもちろん?尊敬する彼氏と可愛い彼女の為っすから。」


 当たり前のように笑っているが、明日集合時間に遅れてきたのは別の話。本当にこいつは馬鹿だ。


 

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3人で楽しく生きてみよう わたぬき @saiunaira918

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