第2話 不良学生殺人事件②
その後、斯波達臣警部補がのこのこと小手川のもとにやって来た。
「小手川さん。被害者の両親が来ました、現在近くの喫茶店で待たせています」
斯波は小手川を近くの喫茶店に案内した。店の中に入ると奥に二人組の男女が座っている。
これが両親なのだろう。母親の方は狂ったように泣いている。
すぐに斯波が小手川をぐいと引き寄せて
「小手川さん、被害者の母親なんですが、息子を失ったショックで正当な受け答えが出来ません。くれぐれも無理はなさらないように」
「いや、斯波さん。確かにそれは無理もないですが、じゃあ何で連れてきたんですか。あれじゃ事情聴取にならないでしょう。結局被害者遺族の気持ちを逆なでするだけでしょう」
「所轄の馬鹿共が連れてきたんですよ。本当はあとで落ち着いたら聞きたかったんですが、まあ最善の策としてできるだけ刺激しないようにお願いします」
斯波は小手川を巧みに説得して、小手川と一緒に隣に座った。しかし、所轄がとんでもない悪手を打ったせいで、何から聞き出せばいいか分からない。両者無言の時がしばらく過ぎて、小手川が諦めて斯波を連れて帰ろうとしたとき、その沈黙をうち破るものが現れた。
「刑事さん。なんで黙っているんですか。俺たちに質問を聞きに来たんでしょう」
「あ、すみません。じゃあお名前を教えていただけますか」
こちらがいちいち緊張するあまり、相手に気を使わせてしまっていた。このことを反省しつつ小手川はその男性の方を向く。
そして、父親とみられる男は話す。
「俺は新沢浩也、ラーメン屋だよ。隣にいるのは嫁の典江。悪いけど、今他の奴と話す気分じゃないと言うから、俺に聞いてくれ」
「はあ、分かりました」
斯波はそういうとまずは額面通りのことを聞いた。
「でもって、洋輝さんに何か恨まれるようなことは」
すると、浩也は
「まあ、あいつは悪童を超えた悪童ではありましたけど、そんなに恨まれるほど悪いことをしているわけではないでしょう」
悪童なのかどうなのか、情報によると少し成績の悪い程度で悪ふざけの多い性格なようだ。まあ、そこまで恨まれる筋合いもないと思われる。自分の息子だから贔屓目に見ているのか、浩也ははきはきと話す。
「あの日の夜は、あいつが居残りで絞られる旨を話していたので、とてつもなく絞るとは思いましたが、さほど疑わなかったですね。でも、門限はきちんと守る人だったので」
つまり、新沢のことを心配していたということか。どちらにしても、この事件にはあまり関係ないだろう。これ以上聴いても典江の精神を逆なでするだけだろうと、小手川たちは、礼を言うととっとと部屋を出た。
すると、それを待ち構えていたかのように、榊原がドアの外で待っていた。
「小手川さん、さっき聞いたことなんですが、新沢洋輝は職員室から出た後、すぐに昇降口に行ったそうです」
小手川たちは驚いたが、気を取り直して聞いた。
「いや、でも遺体は化学室に有ったんだろう。昇降口を出た時点であの教室に戻るはずはない」
斯波が榊原に詰め寄りつつ確認する。小手川は
「恐らくですが、新沢はあの後教室に戻る用ができ、そこで何らかをしている犯人にあった可能性が一つ、もう一つは」
榊原が唾をのむ。
「殺害現場がこの教室ではないということだ。」
この言葉であたりを鎮めた後、小手川は、疑問を抱えながら喫茶店を後にした。
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