卑しい猫

銀満ノ錦平

卑しい猫


 猫が道を歩いている。


 私はその猫に声を掛ける。


 猫は、長い尻尾と自身の柔らかい身体を淫らに呻らせ、『にゃあ…』と私を誘うかの様に鳴きながら、私の方に向かってくる。


 猫という生き物は、他の動物には見られない何処か蠱惑さを醸し出している気がしてならない。


 別に他の動物が魅力的では無いということではなくて、なんというか擦り寄る様が何処か誘っているようにしか私には見えないのだ。


 勿論、それは人間がそう見えて想像しているだけで、決して猫自身はその様な人を卑しく誘っているわけじゃないのは理解しているし、猫にそんな淫靡いんびな感情を持ってしまう私自身がおかしいのも良く理解している。


 だが、あの耳にねっとり…と纏わりつくようなあの鳴き声が私をより猫に背徳的淫な感情を覚えさせてしまう。


 しかしそれは決して、猫とまぐわいたいとかそういう事では無くて、あくまでそう見えてしまうという先入観が迸っているというだけであるので、変態と言われるのは仕方ないが猫をイヤらしい目線で見ていると思われるのだけは勘弁してもらいたいものである。


 私に寄り添っている猫はくねくねと自らの身体を私に擦り付け、あたかも私がこの猫にマーキングされているかの様に…それも誰にも渡さない、誰にもこの人を触らせないと勘違いしてしまう位に身体中、何処もかしこも擦り付けていく。


 ふと偶に顔に当たる尻尾がそれはもう、女性が美しく柔らかく…そして淫逸に誘う様にその白い腕とねっとりと纏わりつくように指を動かし、私の顎から顔の輪郭を沿ってすりすりと惑わしているのかと錯覚してしまう。


 しかし、これはあくまで猫が動物の本能の一環として甘えているという行為なだけでそこにはきっと惑わそうとしている意図は無いと思っている。


 思っているが、もしそう感じていたとしても猫の目が私を捉えたとき、何処か私に何かを投げ掛けている様に思えて仕方なかった。


 これが犬ならきっとただ遊びたいだけなんだと思えるし、他の動物だって私の事が好きなんだなぁ…位の感情で留まっていることであろう。


 たが猫は…猫だけは何処か違う。


 明らかに誘っているのだ。


 そう見えてしまうと私はもうどうすればいいかわからない。


 猫に欲情してしまっていると言われても仕方ない感情之高鳴りが止まらない。


 私は猫を抱く。


 猫はにゃあ…と鳴いて私を見る。


 その丸い目も。


 その丸い顔の輪郭も。


 その身体の白と黒のコントラストがいい具合に混ざり合っている色も。

 

 身体の柔らかくまるで女性の腰を掴んでいるように感じるこのラインや感触も。


 そしてこの人を誑かさんとばかりにねっとりと揺れる尻尾も。


 全身が卑しい。


 凄く…卑しい猫。  


 



 


 


 


 


 


 

 

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