第13話 領都で宿屋に泊まろう。
東門の検閲の行列を経て、ようやく領都に入ることができた。
東門にある白い台に右手を乗せると緑色に光って、私とお兄ちゃんとジグさんは無料で領都に入ることができた。よかった。荷馬車の荷物も通り一遍の確認法という感じで緩く、それもすごくほっとした。衛兵さんの、領民に対する信頼が厚い。
「まずは宿屋に行こう。休憩と腹ごしらえをしなくちゃな」
「ご飯ー!!」
「食べた―い!!」
ジグさんの決定に、お兄ちゃんと私は拳を振り上げて賛成した。石畳が敷かれていて、立派な家や店が並ぶ領都のご飯はきっとおいしいはず。
テーマパークで遊ぶ気分で、わくわくする。
どんな宿屋に泊まることになるんだろう。以前、凛々子だった時には赤い屋根の可愛いペンションに、パパやママと泊まったことがある。湖でボートに乗ったり、牧場を見に行ったりした。食べたソフトクリームはすごくおいしかった。
戻れない日本での思い出を思い返していると荷馬車が泊まった。看板に『熊と小鳥亭』と書いてある。四角い、無骨だけど温かい木の看板だ。建物は少し古びた二階建ての木造の宿屋だった。外観は、可もなく不可もなくという感じなんだけど……。
木の扉には『しばらくお休みします。 熊と小鳥亭店主』の張り紙がある……!!
「ジグ親方。宿屋、休みなの!?」
「ジグさん。今日泊まりますって予約……お知らせしてなかったの!?」
「してないな。まあ、中に誰かはいるだろ。おおーい!! 開けてくれー!!」
ジグさんはそう言いながら、力強くドアを叩き始めた。
予約無しで突然押しかけ、さらにお休みの張り紙を見ても無視する超ストロングスタイル……!!
ジグさんと一緒にお兄ちゃんも、大声を張り上げて呼びかけている。ごめんなさい。宿屋さん。運命の女神様、どうか罪深いジグさんとお兄ちゃんが許されますように……!!
私が荷台に縮こまるようにして、ジグさんとお兄ちゃんの無礼が許されるように祈っていると、扉が開いた。ジグさんの言う通り、中に人がいたのだ。うるさくしてごめんなさい。
「よう。ダーバリオ!! 久しぶりだな!!」
「ジグ親方だったのか」
扉を開けて出てきたのは、線が細く気弱そうな男の人だった。ティナのお父さんの身体の半分しか無さそう。パパよりは年上で、なんだか疲れた顔をしている。
「泊めてくれ。叡智の神殿に商品登録をしに来たんだよ。部屋は空いてるだろ?」
「ジグ親方。今、うちは休業中なんだよ。張り紙、貼ってただろう?」
「だったら部屋は空いてるじゃないか。大人ひとりと子どもふたり。商品登録が済むまで泊まるぞ」
笑顔を浮かべながら一歩も引かないジグさんに、ダーバリオと呼ばれた宿屋の主人らしき彼が苦笑した。
「子どもがふたりもいるんじゃ断れないですね。どうぞ、中に入ってください。俺は荷馬車を馬車停に置いて来ますんで」
どうやら、私たちは休業中の熊と小鳥亭に泊めてもらうことができるみたい。よかった!! ありがとうございます。宿屋のご主人。感謝します。運命の女神イリューシャ様。
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