第14話 初めてのひとり部屋だけど……。
熊と小鳥亭はこじんまりとした宿屋で、泊まれるのは二階にある4部屋だけらしい。
今は休業中なので、私とお兄ちゃんとジグさん、それぞれ一部屋ずつ泊まらせてもらうことになった。宿代は三部屋、ジグさんが5日間分を前払いした。
私がティナになってから、初めての一人部屋だ……!!
私は心を弾ませながら角部屋の扉を開けた。……部屋は薄暗い。廊下には分厚いガラスの小窓があって、仄明るかったのだけど部屋には窓ひとつ無い。今は扉を開けていて、廊下の明るさで部屋がぼんやりと見渡せる。
部屋にはベッドと背もたれの無い丸椅子しかなくて、丸椅子の上には蝋燭立てと短い蝋燭があった。それから、小さな四角い箱が置いてある。
「お嬢ちゃん。荷物を持ってきたよ」
熊と小鳥亭の主、ダーバリオさんが荷馬車から私の荷物を運んできてくれた。
「ありがとうございます」
「小さいのにきちんと礼を言えるなんて偉いなあ。荷物はベッドに横に置くよ。毛布と枕を持ってきてもらえてよかった」
ダーバリオさんはそう言って、畳んだ毛布をベッドの上に置いた。
「部屋は10日くらい掃除していないんだけど、シーツは変えてあるから」
洗濯されたシーツを、誰も使わない状態で、10日くらい全く掃除していない部屋のベッドに敷いている……というのは有料の宿屋としてはどうなの? 有りなの?
宿代はジグさんがすでに前払いしている以上、不満を言っても仕方ない。
私の戸惑いに気づくことなく、ダーバリオさんは丸椅子を部屋の隅に移動した後、四角い箱から黒い棒を取り出して、棒を蝋燭の芯に触れさせた。すると、蝋燭に火がつく。
「えっ? 火がついた。なんで?」
「お嬢ちゃんは火つけ棒を見たのは初めてか。そりゃ驚くよな」
「火は火つけ石でつけるんじゃないの?」
「これは火つけ棒っていう魔道具なんだよ。錬金術で作られたもので、魔力操作スキルが無いと使えないんだよ」
「じゃあ、私は使えないんだね」
「そうだよ。蝋燭を倒さないように、椅子は部屋の隅に移動したからね」
「うん」
「今は部屋の扉を開けっぱなしでも安全だから、開けておくよ」
「あの、宿屋には私たちとダーバリオさんしかいないの?」
「一階の奥の部屋に、俺の奥さんがいるよ。右足の太股を骨折して、今、ベッドで寝ているんだ」
ダーバリオさんが悲し気な顔で言う。骨折。それは骨を折るということ。大怪我だ!!
「ダーバリオさんの奥さん、大丈夫なの!?」
「叡智の神殿の治療院で骨はくっつけてもらえたんだけど、20日は右足を動かさないようにと言われてね。痛みもひどいようで、だからずっとベッドで寝てるんだよ。今、骨折してから10日目なんだ」
だから、部屋は10日くらい掃除していないって説明してたし、宿屋もお休みだったんだ。
私たち、突然押し掛けた、迷惑なお客さんになっちゃったけど、なるべく騒がず、静かに過ごそう。骨折したダーバリオさんの奥さんが、ゆっくり休めるようにしないとね。
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