第二十一章:先輩、大ピンチですねっ?

次の日の朝。

いつも通り制服に袖を通して、いつも通り家を出る。


ただ──

今日は、月乃が来なかった。


それだけで、胸の奥がざわついた。


(……やっぱ、昨日のが響いてんのか)


距離置こうって言われてから一晩。

なにも連絡がなかった。

だけど、そのことを責める資格が、今の俺にあるとも思えなかった。


学校に着くと、月乃はすでに席についていた。

俺の顔を見ても、何も言わない。


(無視……ってわけじゃない。けど)


その目には、うっすらと“よそよそしさ”が混ざっていた。

かといって、怒ってるとも違う。

冷たいような、寂しそうなような、そんな複雑な光があった。


「……おはよう」


小さく声をかけてみる。

けど、返ってきたのは、それより小さい声だった。


「……うん、おはよう」


月乃はそれだけ言って、ノートに目を落とした。

それっきり、会話は続かなかった。


休み時間も、昼休みも。

一緒にいる時間は確かにあったのに、言葉が全然、交差しなかった。


(なんでだ……?)


理由が分からない。


昨日の喧嘩だけで、ここまで冷たくなるか?

いや、それ以上の“何か”がある気がしてならなかった。


でもそれが何なのか、俺には見当もつかなかった。


当然だ。

まさか自分が“他の女と歩いてる写真”を、月乃が目にしているなんて知る由もないのだから。



~~~



放課後。

月乃は俺を見ずに、鞄を持って「じゃあね」とだけ言って教室を出た。


後ろ姿を見送ることすら、今は苦しかった。


「……ったく……」


机に突っ伏したそのとき、スマホが振動する。


画面には、“リア”の名前。


📱「今日も夕飯、作ってあげますよっ♪」




(……)


さっきまで張りつめていた胸が、ほんの少しだけ緩む。

それが良いことなのか悪いことなのか、自分でも分からなかった。

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