第十九章:メシウマ系ヒロイン、リアちゃんです

教室を出ても、気持ちは晴れなかった。

なんなら、どんどん濁っていく。


(距離置こうって、月乃……)


帰り道、イヤホンも入れずに歩いていた。

蝉の声すらうるさく感じる。


月乃の顔が頭にこびりついて離れなかった。

今日のあの表情。

水滴の音。

「距離置こうか」の声。


俺は……俺は、どうすればよかったんだ?


(でも……リアのあの感じも……)


月乃が“冷たくなった”タイミングで、

まるでそこを狙ったように入ってくる、リア。


(あいつ……なんなんだよ……)



~~~



そんな思考が渦巻いているところで、玄関のチャイムが鳴った。


ピンポーン。


「……誰だよ……」


ドアを開けると、そこにはスーパーの袋を両手に抱えたリアが立っていた。

満面の笑みで。


「こんばんは〜! 先輩っ!」


「……お前……なんで……」


「傷心の先輩に、元気になってほしくって!

はいっ、晩ごはんと、明日のお弁当と、明後日の作り置き、用意しちゃいます!」


「いや、勝手に……」


「台所借りますね〜!」


言葉の隙を突いて家の中へ入り、

スーパー袋をテーブルに並べ、包丁を取り出し始める。


それを止める余裕もなく、

俺はリビングで座り込み、うなだれた。


気づけば、いい匂いがしていた。

肉じゃが、だし巻き、味噌汁。

どれも“ちゃんとした料理”だった。


……でも。

ときどき、変な味が混ざっていた。


甘すぎるきんぴら。

異様に辛い小鉢。

塩っけが強すぎるスープ。


でも、リアはにこにこしながら差し出してくる。


「どうですかっ? 彼女の料理より、美味しいですかっ?」


「……うん、美味いよ。変なのもあるけど」


「え〜!? ひど〜いっ!! でも、先輩のために作ったから、残さないでくださいねっ♡」


皿を片づけながら、リアはふと思い出したように言った。


「あ、そうだ。

今日、月乃先輩……知らない男の人と帰ってましたよ?」


「……は?」


「あ、でも別に、仲良さそうには見えなかったですし!

たまたま方向が同じとか、そんな感じだったんじゃないですか〜?

……でも、月乃先輩、そういうタイプじゃなかったですよね?」


その言葉が、グサリと刺さった。


「……まさか、もう“乗り換え”とか……?」


笑い混じりに言ったその一言が、心の奥に沈殿していく。



~~~



その頃。


月乃は、自室のベッドに座り込んでいた。

制服のまま、鞄も床に置きっぱなし。


(どうして、あんな言い方しちゃったんだろ……

ちゃんと、“違う”って言いたかったのに……)


窓の外は赤く染まり、時計の針は18時を過ぎていた。


月乃のスマホ画面には、開きかけたLINEのトークがあった。

でも、何も送れないまま、時間だけが流れていく。


(……謝らなきゃ。ちゃんと伝えなきゃ……)


だけど、その指は、まだ“送信”を押せなかった。

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