第1章 ⑯
遠ざかる無人戦闘ヘリのローター音が、壁越しに微かに響いていた。
夜空の向うへと遠ざかって行く無人戦闘ヘリの灯を視界の隅で見送りつつ、
ふと気が付いて、頭の後ろのすみれ色のリボンの位置を直す。
(うん、どこも変じゃない)
ダイジョブ。
まさか、こんな時間に呼び出されるとは思ってもみなかったので緊急連絡が送られて来た時は、正直面喰ってしまった。生徒隊長の職を引き継いだ先輩からは、「本当に遠慮容赦なく呼び出されるよ」とは聞いてはいたけれど、まさか、こんな時間にこの場所へ……。
ほんの二十分前までパジャマを着ていたというのに。
(特別任務……か)
さやかは、ロビーの中央にある応接用のソファに腰を下ろした。
学校の隣にある本社ビルのオフィス区画には何度も来ているが、その最上階である三十一階の役員達のオフィス区画に入ったのは、今日が初めてだった。
ゆったりと並べられた総革張りのソファーにクリスタルで作られた美しい間接照明。
部屋の一角に設けられたドリンクスペースには、濃縮還元や合成濃縮などではない百パーセントストレート果汁の各種フルーツジュースや本物のコーヒー豆からドリップされたコーヒーが並べられ、その傍には、来客へのサービス専属の接客ユニットを背負った
暑くもなく、寒くもなく、柔らかな光に満ちた待合室は、とても居心地がいい。
ここが、
とは言え──
ここは民間軍事会社なのだ。
民間の軍事力を有する営利企業。
何をどうしたところでその本質は決して変わることはない。
さやかは、暇つぶしがてら網膜投影式ブラウザを起動させる。
ブンッ、という微かな起動音と同時に網膜に浮かび上がったのは、一匹のウサギの画像。
警衛隊に加わったというもふもふの戦士だ。
(カワイイ……)
さやかの頬に「ふっ」と小さな笑みが浮かぶ。
本人もすっかり警衛隊の一員になったつもりらしく、後ろ足で立ち上がり心なしか誇らしげに鼻をくんくんとさせる姿が堪らなくかわいらしい。
このを動画を量子メール経由で友人から貰ったさやかは、放課後になると矢も盾も止まらず、クラスメイトと一緒にそのウサギがいるという警衛隊の正門側の詰め所に見に行った。
警衛隊詰め所に着いてみると、ウサギは丁度飼い主と思しき女子生徒の胸に抱かれて眠ってるところだった。
抱いていたのは『
まさに女王の通り名にふさわしいその少女の名は、エマ・ウィンターズ。
一学年下の有名人だ。
(どうしよう……)
振り返るクラスメイトにさやかもどう答えたものか瞬時に思い付かない。よもや、なにか不快な事を言われるとも、されるとも思わないけど……。
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