第5話 浄化装置のヒミツ
装着方法や浄化機能の基本的な使用方法について、手取り足取り教えていった。
さすがは特殊部隊で訓練を積んでいるだけあって、堀越たちが使いこなせるようになるまでにそこまで時間はかからなかった。
「──それで、ここのベルトをぐっと締めて腰に固定してあげることで、効果を最大限に発揮することができるんだ」
「なるほど、こうですね」
「こんなちっこいので浄化できるんだな。さすがはJSTL」
「いや〜それほどでも」
照れた素振りを見せると、葵からすかさず「作ったの先輩じゃないですよね」とツッコミが入る。
ごまかすようにコホンと咳払いをしてから話を続けた。
「でも、ただ浄化するだけの箱じゃあない。そうだな、お二人共、側面の青色のボタンを押してみてくれ」
二人は葵の言うとおりにボタンを押し込んだ。すると、目の前に小さなホログラムのパネルが映し出された。
「こんなものも搭載してるのか」
「研究や調査にデータは必要不可欠だからな。いま表示されている画面には、私たちの調査に関する情報がまとまっている。第2部隊の情報も見ることができるから、ついでに確認してしまおう」
喋りながら慣れた手つきで画面を操作し、第2調査団の情報が格納されているファイルを開いた。中には各調査員の氏名と顔写真が並べられてあり、各々の肉声も聞くことができる。人を探す上で役に立つこと間違いなしだ。
「もし見返したくなったら、誰にも見られないところでこっそり使うこと。くれぐれも、他の人には見つからないように」
「はい。丁寧に教えていただき、ありがとうございます」
和泉がそう言うと、堀越と同時に頭を下げた。
自衛隊仕込みのお堅い表現をむずかゆく感じていると、おとなしかった後輩がパンと両手を叩いた。
「そうだ。今のうちにお互いの呼び方を統一しておきましょう」
「たしかに。葵の言うとおりだ」
紫音が納得した一方で、特殊任務隊の二人は目をパチパチさせていた。
「と、言いますと?」
「一般的に、庶民が名字を公に名乗れるようになったのは明治に入ってからなんです。なので、僕たちの間で呼び方が大きく変わってしまうと、それだけで怪しまれる遠因になったり、いらぬトラブルを呼び込んでしまったりする恐れがあるんです」
それを聞いた堀越と和泉には戸惑いの色が表れていた。
「つまり、お互いを下の名前を呼ぶ、ということですか?」
なるほど、バディでも下の名前を呼び合うのは少々気が引けるものなのか、と紫音は勝手に推察した。恥じらいながら呼び合う様子も見てみたいな、と
「いえ、今回は上の方でも構いません。僕たちの中で統一できれば大丈夫なので」
堀越と和泉はほっとした顔を見せた。
「なら、上の方でお願いします」
「私も堀越と同意見です」
「分かりました」
「ちなみに、私と葵は下の方で呼び合っているので、できればおふたりにもそう呼んでもらいたい。それから、さん付けはしなくて結構だ。なにせ、今から向かう時代はさん付けが定着するよりも前の時代だからな」
得意げに付け加えると、二人はまたも目を丸くした。しかし今度はただの驚きではなく、好奇心からくる反応のように見えた。
人が新たな知識を得た時に見せる反応というのは、いつ見ても飽きないものだと紫音はつくづく感じていた。自分がかつて同じ知識に触れた時の感動を彼らも味わっている、というのはなんとも奇妙な感覚だ。
かつて、このことを八雲に話したことがあった。すると彼は、少し考える素振りを見せてからひと言、「時空を超えた共感だな」とつぶやいた。JSTLの所長らしい、ぐうの音も出ない表現に感服したのを今でも鮮明に覚えている。
あの頃は若かったな、とひとり思い出に浸り始めたところで、和泉の声が意識を現実に引き戻した。
「ところで村雨さ──、紫音、あとどれくらいで着く予定なのでしょうか」
さっそく適応してくれた和泉に感心しつつ、タイムマシンのモニターを一瞥した。
「そうだな……、もう少しで着くみたい」
「意外と早いのですね」
このとき、それまでクールな表情を崩さなかった和泉の頬が一瞬緩んだような気がした。心の奥底にしまってあると思われる、小さな好奇心が我慢できずに表に出てきたといった感じだろうか。冷徹で毅然とした人なのかと思っていたが、彼女に対してもまた、良い意味で認識を改めることができたことに紫音は嬉しく思った。
そのとき、ちょうどタイミングを見計らったかのように、まもなく到着するという旨の自動アナウンスが船内に響き渡った。
「おっと、そろそろ着陸態勢に入らないとな。けっこう強い衝撃が走ると思うが、頑張ってこらえてくれ」
紫音の言葉に全員が表情を引き締め、同意の合図を送る。その後、素早く元の席に座り、動かした椅子の向きも元に戻す。それから数十秒後、外を映し出すモニターが白い光に包まれ始めた。そこからまもなくして、強い衝撃と爆音が一気に押し寄せた。
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