ショートショート集

タケル

「靴だけ残る」

 発明家タケルがついに完成させた――携帯型の瞬間移送装置「ポケゲート」。


 指先サイズのワープデバイス

 目的地を設定し、ボタンを押すだけ――理論上は完璧


 試しに押した瞬間、タケルの体はふっと消えた。


 成功だ!……と思ったら、机の下にスニーカーだけが残っていた。


 そして移送先の公園で現れたタケルは、なぜか裸足だった。


「まあ、ちょっとした誤差だろう」と笑って再実験。


 だが、その後も革靴でもサンダルでも同じ。

 さらに、裸足では転送そのものが拒否される。


≪エラー:靴の欠落を検知≫


「靴がなきゃ移送できない。だが移送すると靴だけが残る……」


 どうにも理屈が合わない。


 困り果てたタケルは、AIアシスタントのYAMAちゃんを呼び出した。


「タケルさん、それ、靴が“地面との接続データ”を持ってるんじゃないですか?」


「つまり……俺の足が世界に登録されてる、ってことか?」


「簡単に言えば、靴が世界の“しるし”です。地球に置いてきた名札みたいなものですね。」


 要するに、靴がアンカー(錨)になって、人だけ転送されていたのだ。

 裸足ではタグがなく、転送そのものが拒否される。

 履けば飛べるが、飛ぶたびに靴を一足失う。


「ワープするたびに靴を一足ずつ失うわけか……」


 タケルはため息をつき、玄関の下駄箱を見た。

 革靴、スニーカー、長靴――どれもお気に入りだ。


「こいつらが無くなっていくのか?靴の買い換え代だけで破産しそうだなあ……」


 YAMAちゃんがつぶやく……


「タケルさん、靴屋と提携するってのはどうでしょう?!」

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ショートショート集 タケル @takeru_yamato

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