1、小春の季節

1.小春の季節


4月1日、新任職員の入社式の日。

当院は約150人を迎えることになっている。

病院の大講堂にぎゅうぎゅうに新任者、異動者を集めて丸一日の説明イベント。年度替わり一発目のイベントということもあり、例年トラブルはつきものだ。

「大丈夫ですかね、、、」丸山人事係長が隣でポツリと呟く。1つ先輩の係長、そう思えないくらいしっかりしてるのだが心配性だ。20代とは思えない落ち着きと人当たりの良さ、昭和のイケオジ感を醸し出す風貌に女性職員人気は抜群だ。もちろん男性人気も高い。変な意味ではなく、、、。

人事と総務の特大イベントともあってナーバスになっているのだろう。今後院内でのやりやすやを考えると盛大に滑った!などあってはならない。

「なんとかなりますよ。ならないと昨日から準備したのがバカみたいじゃないですか」自分自身も落ち着ける様におどけて答える。昨日は会場設営や書類の確認と日を跨いだ、失敗してたまるか。

しかし、なんとなく不安もあった。

そして悪いことは的中するものである。


「倉田さん、出席者はどう?揃った?」

8時半開始の10分前、9割は揃っておいてもらわないと困る。来年1.2名の遅刻はいる。大概医者でそのまま外来診療に入ってしまうパターンだ。

「4名来てませんね。」

「おおっ!悪くないね。端数端数」

少し不安が減ったようなトーン。来年に比べると集合率は悪くない。丸山係長の口角がやや上がる。

「医師3人とぉ、事務の新しい子です。」

下がる。

「事務?」

丸山係長と目を合わせる。単純に遅れているだけだろうか。心の奥の一抹の不安がなんとなく輪郭を帯びてくる。そもそも事務の新人って今年度から総務配置予定じゃねぇか。

内心毒付く俺を尻目に、丸山係長が指示を出す。

「医者はひとまずPHSに連絡してみて。事務の子は遅刻の連絡とか入ってない?事務所に間違えてきちゃったとか?ひとまず課長に伝えてきて。」

なにこの早口。焦りは伝播するようで、報告を受けた樋口人事課長も目を丸くする。

「いや、連絡来てないよ。ちゃんと書類は送ってたんでしょ?まさか、、、ね」

おい、不安を煽るな。

「ひとまず時間になるから医者だけ呼んで、事務の子はあと、単純に迷ってるだけかもだし、全体が遅れるほうが困るしね。」

樋口課長の指示で輪になりかけていた事務の集団がばらける。表情には出さないがみんな不安を抱えているのだろう。なんとなく足取りが重たい。

「只今より入社式を始めます。」この状況からは想像もつかない丸山係長の溌剌な声で式は始まった。


「どういうことだよ、連絡とか来てないの?」

昼休憩の時間、珍しく強い口調で丸山係長が倉田さんに尋ねる。

「いえぇ、来てないです。」

「三谷くん、俺の机の引き出しに履歴書があるから、連絡して確認してくれない?俺、午後の部の準備があるから。」

「分かりました!またご連絡しますね!」

労務担当の三谷くんが飛ぶようにホールを後にする。

「係長、このまま内定辞退ともなれば総務係欠員ですよ。困りましたね、、、」

「そうですね、みんなで手分けしないといけなくなりますね」

普通の人間なら午前中来なくて連絡しないなんてありえない。これは決定か、、、。

ただでさえカツカツの総務、なんとか短時間職員を入れつつ形として保てきた。今年度はイベントが増加することを踏まえてなんとか事務長に頼み込んで人員を増やしてもらったにも関わらず、現実はこの仕打ち。残業続きだったが体に鞭打ってここまでやってきて、やっと掴んだ1人増員が今にも崩れ去ろうとしている。

と、丸山係長のPHSが鳴る。焦燥感から現実に急激に引き戻される。

「うん、わかった、、、後で俺からも連絡するから、、、」

何かを失ったような笑みを浮かべて丸山係長は通話を終える。

「内定辞退されちゃいました。また私からも連絡します。ひとまず午後の部ですね。」

そうか。俺と同じくらい、採用に関わってきた係長は思うことがあるのだろう。それでも気丈にみんなの前では振る舞っている。俺も切り替えないとな。

始まる午後の部。始まる今年度。先は暗い。

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