2、事務部長室で

2日間の入社式、オリエンテーションを終えて今年度3日目、新入係員の内定自体が決まってから重々しい雰囲気の事務所の中、部長から俺は呼ばれた。初日に話がなかったのでバタバタした2日間が終わってから話すのだろうと予想はしていたのだが、やはり気が重い。ノックするかしないかのタイミングで部長室の扉が開く。

「どうぞ。まずは座ってよ。」

促され席につく。薄いメガネの奥でほんのり笑みを浮かべる黒瀬部長と対面する。後ろの部長室の大きな窓から、心地よい春の景色景色がよく見える。

「まずは今回の件、残念だったね。こんなことになるなんて想像すらしてなかったよ。本当は初日に声をかけるべきか迷ったんだけど、事務所はみんなバタバタしてたから落ち着いてから話すべきだと思ったんだ。」

「はあ・・・お気遣いありがとうございます。」

話が見えてこない。

「そこでね、色々考えたんだけどいっとき1人欠員のままで頑張って欲しいんだ。」

「えと・・・」

「できないかな、まずは総務の状況をよくわかっている係長に確認しておこうと思ってね。問題なさそうなら、班長、課長に話をしようと思ってる。」

「いや、ちょ・・・」

無理だ、絶対無理。これまで俺と係員2人、時短の非常勤職員2人でなんとかやりくりしてきたけど、ここから係員1人いなくなれば確実に総務は崩壊する。そもそも1人欠員のまま回すってどういう了見だよ。基本的には上司の言っていることは絶対だ。でもこれは流石におかしすぎる。ぼやっと抵抗しよう。

「部長。“いっとき“というのはどのくらいの期間を見られているのですか。」

「少なくとも半年は待ってもらおうかと思っているよ。10月採用に期待だね。」

だねっ、ておい。過労死するわ。

「これまで結構忙しい日が続きました。昨年あたりからイベント等も増えているので1人欠員で進めるとなると業務に支障が出ます。人を減らすのであれば業務もある程度減らしてもらわないと困ります。」

言いすぎたか・・・?少し困った顔の部長を見ながら総務内の業務を洗い出す。

「わかった。ちょっと考え直すよ。」

「・・・」

えっ?

「確かにね、係長の言ってることもわかるよ。難しいものを押し通すのも違うよね。」

なんだ、わかってくれるのか。

「でもね、人をそう簡単に雇えないっていうのも分かってね。他の部署も人が溢れているわけじゃない状況っていうのは分かってると思うけど、ここ数年は院長が人件費に厳しいんだ。その場しのぎで非常勤職員さんを雇ったらフルタイムの常勤職員は雇えなくなるかもしれない、目の前のメリットだけでは動けないんだよ。」

「わかりました。ただ年度始まりは大事な時期なんです。」

なんか俺が悪いみたいになってないか・・・

「うんうん、年度始まりが大変なのは分かってるよ。できるだけいい方向になるようには考えるから。」

「よろしくお願いします。今日は失礼します。」

話を続けても埒が明かない。早く終わらせよう

「うん。こちらこそ思っていることを伝えてもらって助かったよ。忙しいとは思うけど頑張ってね。」

部長室を出る俺の背中に水をかけられたような冷たい感覚が走る。

「でもね。」

振り返ると部長の目が細まっている。レンズのせい、ではないな。

「どうしてこんな状況になったのかはしっかり考えてね。」

部長の後ろの窓は、真冬の夕方のように曇っていた。

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