ミナシ ミナサレ 公務員

@saxanami

プロローグ

朝日が昇る、心は沈む。

7時にセットしたアラーム、4、5回のスヌーズを経てやっと体を起こす。日当たりは悪いはずなのに、カーテンの隙間からの日差しが目の奥に刺さる。仕事のための朝支度は最小限。社会人になってから朝食も取らなくなった。ぼやっとした頭のままワイシャツにアイロンをかけ、中途半端にシワの残る袖に手を通す。なぜ昨日のうちにアイロンを掛けないのか、、、。子供の頃から抜けない後回し癖を毎日恨む。

いつも通りのアパートのエントランスから外に出る。目覚に強すぎた光、1日の始まりの踵への刺激としては弱々しすぎる。10分かかるかわからないくらいの通勤時間はあっという間で、頭の中はなんの整理もないまま職場に着いてしまう。

「今日も仕事かぁ」毎日同じことをぼやきながら、職員用入口をくぐる。公立病院の事務部総務係長。もちろん民間職員だが、公務員の様な足を縛られた仕事をしている。公務員にはない先の見えない恐怖はおまけの様にくっついている。いわゆる半官半民とかみなし公務員の類。

仕事を始めた頃は上司より前に職場に来ていたが、最近はもっぱら始業ギリギリだ。ため息で勢いをつけるかのように押し込んだWindowsのスイッチ。始業ベルの様な起動音で心に僅かな喝を入れる。と、同時に出勤してきた部下倉田さんの足音。時計が始業時刻になったと同時に席に着く。「おはようございまぁす」と呟く様な緩めの挨拶。十分な睡眠時間が取れているのだろうか、抜ける様な肌艶の良さだ。一般的に言われる美人の類だろう。大きな目にポテっとした唇、透き通る様な声に院内にファンは多いらしい。学生時代なら食いついたろう美貌も若さも今やなんとも感じなくなってしまった。

院内イントラに目を通した後、外部メールのチェックを行う。昨日、残業して帰ったはずなのにすでにメールボックスには数件のメールが来ている。依頼メール1件、明らかな迷惑メール2件。迷惑メールの内容が日に日に楽しいと感じてしまう。朝一番のくだらない内容に頬が緩む。

ゴミ箱に増える迷惑メール。

依頼メールは市役所から、定例の報告依頼。なんのために提出しているのかわからない報告。だが、2時間あれば終わる。今日の午前中に片をつけてやろう。いや、午前中ゆっくり時間をかけて新しい仕事を振られないようにしてもいい。

と、くだらないことを考えながら今日もスタートにスタートダッシュしないことを決める。

デジャブの様な朝イチの光景。今日が始まる。

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