第5話 俺たち、拾っただけで大金持ちになりました
武器屋の店主は、その剣を見るなり固まった。
――いや、ほんとに固まった。
まるで時間が止まったように、目を見開いて動かない。
しばらくして、震える声で呟いた。
「……美しい。なんて美しい刀身だ」
その声に、俺たちは顔を見合わせた。
剣の表面には淡い青光が走り、柄の装飾は王族が使っていそうな細工。
だが俺たちの脳内評価は、
「ちょっとデカくて使いづらい剣」
である。
店主は続けて言った。
「これは鋼ではない。……魔鉱石が練り込まれてる。しかも高純度の……いや、まさか……」
手袋をつけて魔力を通すと、店の空気が一瞬ざわめいた。
床の埃がふわりと浮き、ランプの炎が揺れる。
「通りが良いってもんじゃないな……魔力が、倍以上に増幅される」
倍て。
そんなバフ武器、普通のゲームなら即・チート修正だ。
店主の顔が完全に商人の顔じゃなくなっている。
もはや欲望の権化だ。
「おそらく、売り値は最低でも五億エーン……いや、十億の可能性もある。だが今うちで出せる現金は五千万……」
ゴクリ。
トオル(俺)はなるべく冷静を装いながら言った。
「これ、魔の森の中心に刺さってたんだ」
「……推奨Bランクの、あの魔の森の?」
「そう。拾った。……まあ、使えなかったから売ろうと思って」
店主は目を細める。
「拾った……だと? 本当に、拾ったのか?」
「拾った。」
店主の肩が一瞬ビクリと震えた。
たぶん“拾った”って言葉の破壊力がすごかったのだろう。
彼は深呼吸して、すました声で言った。
「……三千万エーンで、どうだ」
――固まる俺たち。
「……え?」
「……三千万って、三十万の間違いじゃ……」
「いや、ゼロの数多くない?」
脳が追いつかない。
ミミは唇を丸めて口の中に引っ込め、タクトは口が乾いて舌が出てる。
俺は焦りすぎて、「交渉は冷静に」を思い出し、頑張ってポーカーフェイスを保った。
(……よし、落ち着け。俺たちは舐められちゃいけない。交渉だ。大人の交渉をするんだ)
「い、いいんですか? じゃあ、その……三千万エーンでお願いします!」
即答。
交渉という単語は、俺の頭から完全に消滅した。
店主もまた、心の中で狂喜乱舞していたらしい。
もともと五千万でも出すつもりだったのだ。
お互い、笑顔の裏で違う意味の勝利ポーズを取っていた。
こうして俺たちは――たった一本の拾い物で三千万エーンを手に入れた。
もうテンションは天元突破だ。
「なぁ! 冒険者ってこういうのがロマンだよな!」
「やっぱり運も実力のうちって言うしね!」
「私たち、今日からセレブ冒険者~!」
その日のうちに、三人は街一番の高級ホテルへ。
フカフカのベッド、煌びやかなシャンデリア。
夕食には、見たこともないような金箔付きのステーキ。防具や武器も新調した。
「これが冒険者の世界かぁ……!」
「俺たち、もう成功者じゃね?」
「明日はDランク試験、勝ち確だね!」
――なお、1週間後くらいに。
この“拾った剣”で事件が起きることになる
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