第19話:最後のメッセージと、決死の柱解体計画
光一が深く眠りについたのを確認し、秋乃は美樹と茜に温かい飲み物を用意した。家全体を満たしていた重く冷たい空気は薄れ、僅かながら「普通の家」の温もりが戻ってきていた。
美樹は、土屋悟の技術ノートの写しを広げ、光一の苦悶の叫びの最中に秋乃が聞いたという、彼の最後の「言葉」を尋ねた。
「秋乃おばさん、光一さんが苦しんでいた時、何か言葉を言っていましたか?」
「ええ。たしか…『あ…く…あ…く…』と、『やめろ!私の、言葉を…』だったわ。でも、もっと前のことよ。私が物置に隠れていた時、壁の中から聞こえてきた『言葉』」
秋乃は目を閉じ、思い出すように言った。
「私の頭の中に直接響いたのは、『ここにいろ』『出るな』…そして、『完璧な躯』だったわ」
美樹はメモを取った。『完璧な躯(むくろ)』。技術ノートにあった『完璧な祭壇』と通じる。だが、呪いの解除に繋がる明確なヒントがまだ見つからない。
「美樹お姉ちゃん、お父さんが喉を絞められていた時、一瞬『あく』って言ってた。もしかして、『悪』って意味?」茜が言った。
「いや、違う」美樹は首を振った。「秋乃おばさんの言葉は、土屋悟の技術ノートに書かれた呪いの哲学よ。でも、あの呪いのメモの最後に、走り書きがあったの」
美樹はスマートフォンを取り出し、ノートの最後のページの写真を拡大した。
「前の家は、失敗。血が足りなかった。次こそは。」
そして、その後に、美樹も意味がわからなかった、乱れた文字が続いていた。
「…ワダツミノオカミ…」
「ワダツミノオカミ?」茜が復唱した。
「そう。海を司る神の名前。土屋悟が、この狂気の計画を『神の所業』に見立てていたのかもしれないけど、呪いを解く手がかりにはならない」
美樹はそう言いながら、何気なく大黒柱を見上げた。柱の表面の木目が、光の加減で微妙に波打って見える。
「もういいわ。呪いの核心は、この柱の根元。土屋悟の血よ。これを掘り出すには、ハンマーと鑿だけじゃ無理。電動工具が必要。光一さんの道具箱を探すわ」
三人は立ち上がり、柱へと向かった。
秋乃は覚悟を決めたように、柱の根元に手を触れた。
「私、さっき光一さんを助けた時、この柱から黒い泥が滲み出ているのを見たわ。美樹ちゃん、あれが呪いの血ね?」
「はい。そして、あれが光一さんの身体の苦痛と連動していた。あれこそが、この家の心臓です」
美樹はバッグから電動ドライバーを取り出すと、柱の根元のフローリングにネジを打ち込もうとした。
しかし、その瞬間、大黒柱から強烈な冷気が噴き出し、美樹の手を覆っていた。美樹は思わずドライバーを取り落とした。
「熱い!いや、冷たい!体が動かない!」
「お姉ちゃん!」
美樹の手首の皮膚が、みるみるうちに霜焼けのように赤く変色していく。
「家が…家が私たちを拒絶している! 核を攻撃されることを、家全体が理解したのよ!」
柱の解体を前に、家全体が最後の抵抗を見せ始めた。この呪われた家との戦いは、これからが本当のクライマックスだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます