べにしろ

蒼開襟

紅い花を

 雪が降る。しんしんと音もなく、私の覗く小さな窓から白が埋められていく。枯草に濃い緑の葉に紅い花。雪の結晶に触れて、色を変えていく。部屋は暖かい。今朝になってあの人が火鉢を持って来てくれた。寒いだろうと言って、いつも気遣ってくれる。身体がもう少し動くならば、あの人のために何かしてあげられるのに……けれど、そんな事を言おうものなら目を吊り上げて叱るのだ。

「僕がしてあげられるのに」と。

 窓の外の紅い花なら手折れるだろうか?ふとそう思いついて、布団から這い出した。よたよたと襖を開けて廊下に出る。ひやりとした床が指先から凍りつかせて、息を白くした。

 上着を手繰り寄せ、窓に手を伸ばす。

「どうした?」

 名前を呼ばれて廊下の先を見る。あの人は困った顔で私の手を取る。暖かい手、腕の中に引き寄せられ私はホッと息を吐く。

「無理をして……」

 彼はひょいと抱き上げ笑った。

「どうしたかったの?」

 私は恥ずかしい気持ちで指差した。

「あの花を……貴方に見せたかったんです」

 庭に咲く紅い花、白にまみれて美しい。

「……ああ、そうか。ならばこうして一緒に見よう」

「けれど、重くないですか?」

 細身とはいえ重いものだ。

「大丈夫、確かに重いよ……命だもの、僕の大切な」

 ああ、私の旦那様は……。

 私は身体を寄せると目を閉じる。なんと幸せな……

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べにしろ 蒼開襟 @aoisyatuD

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