第4話 結末

冬の夜、街は静まり返っていた。

白く凍った歩道を、誰もいないはずの路地で悠斗は立ち尽くしていた。

仕事の信用は失墜し、クライアントも去り、仲間も離れていった。

残ったのは、逃れられない孤独と、心に刻まれた不安だけだった。す

べての始まりは、あの男――高橋真也だった。


美咲は自宅で、椅子に崩れ落ちたまま静かに泣いていた。

職場での立場は揺らぎ、周囲の目は冷たく、何をしても裏目に出る。

悠斗への信頼も、過去の軽率な行動も、全てが彼女を追い詰めていた。

真也の存在は影のように、静かに彼女の心を支配していた。


真也は静かに二人の動きを見守っていた。

表向きには何も行わず、影としての存在だけを示す。

その冷静さこそが、最大の恐怖だった。彼は自らが仕掛けた心理的罠の網を、

完璧に収束させる時を待っていた。


悠斗は最後の手段として、美咲に連絡を取る。

「・・・美咲、俺たち、もう終わりだ。」

その声はかつての情熱を欠き、冷たく、諦めを帯びていた。

美咲は言葉を失い、ただ涙を流す。

すべてを取り戻すことは、もはや不可能だった。


その瞬間、真也は静かに部屋の外から見つめていた。

復讐は完全に成功していた。


二人は互いに頼ることも、信じることもできなくなり、関係は完全に断絶した。

表面的には誰も傷つけていないように見えるが、

心の奥では、深い亀裂が刻まれていた。


数日後、二人は社会的にも孤立し、それぞれの生活は崩壊していた。

美咲は転職を余儀なくされ、悠斗はフリーランスとしての信用をほぼ失った。

すべては真也の計算通りだった。


真也は夜、書斎で静かにグラスを傾ける。復讐は完遂した。

だが、その瞳には小さな影が差していた。

奪うことで満たされるはずの虚無

――復讐を成し遂げた者だけが感じる、得難い空虚感。

彼は一瞬だけ、美咲や悠斗の顔を思い浮かべる。

怒りも哀しみも、もう自分には届かない。


「・・・これで終わりか。」低くつぶやき、グラスを置く。

冷徹に計算し、全てを奪い尽くした男の背後には、

孤独という名の影だけが残った。復讐の代償。

それは、勝利を手にした者にも確実に訪れるものだった。


夜の街は静かに眠り、冬の寒さが全てを包み込む。

三人の人生は交差し、別々の軌跡を描く。真也は冷徹に勝利した。

しかし、その心に空いた穴は、決して埋まることはなかった。


復讐は完遂した。


しかし、何も戻ってこない。手にしたのは、ただ冷たい勝利の余韻だけだった。

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