第20話 距離という選択

 駅前での言い合いのあと、亮と真司は言葉を失ったまま、それぞれ別の方向へ歩き出した。


 背中に残る冷たい空気が、心の中の距離をそのまま映し出しているようだった。



 その夜、亮は机に突っ伏しながら何度もスマホを手に取った。


「ごめん」と打っては消し、「会いたい」と打っては消す。


 胸の奥で渦巻くのは、怒りでも憎しみでもなく、ただ「好きすぎるがゆえの苦しさ」だった。



 一方、真司も東京の部屋で眠れぬ夜を過ごしていた。


 天井を見上げ、ため息を重ねる。


(守りたいから黙ったのに……それがあいつを傷つけてたなんて)


 スマホに指を伸ばすが、画面を開くだけで閉じてしまう。


「距離を置いた方が、あいつのためなのかもしれない」


 そう呟いた声は、自分自身を刺すように痛かった。



 数日後、亮は友人に「最近元気ないな」と心配された。


 笑ってごまかしながらも、目の奥の影は隠せなかった。


「俺、なんでこんなに苦しいんだろうな……好きなだけなのに」


 その言葉は、誰にでもなく自分自身への問いかけだった。



 一方の真司は、練習に身が入らなかった。


 ダンスのステップを踏みながらも、頭の中は亮のことでいっぱいになる。


(距離を置くなんて無理だ……。でも、近くにいるとすれ違ってしまう)


 答えのない迷路に迷い込んだようだった。


 二人は離れていても、互いを思わない瞬間は一秒たりともなかった。


 けれど、その「想いの深さ」こそが、互いを押しつぶしかけていた。


 ――好きすぎて苦しい。


 その事実だけが、胸に重くのしかかっていた。




#BL


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