第2話 花丸運送


 その店は繁華街から少し離れた一角にあった。

 外装は整えられているのにどこか古ぼけた感が拭えない。店に掛けられた看板には『花丸運送』と書かれている。先日見たのと同じように、文字の下に自分たちの使っている言語でも書かれていた。

 ギルドで聞いた通りで、確かに他の建物と間違えることはないだろう。

 ラキは大きく深呼吸する。

 ここから自分の人生が変わるかもしれないのだ。緊張するのは当たり前である。震える指先で扉に手をかけた。


「あの、すいません」

 古ぼけた外装と違い、広めの室内は清潔さを保っていた。綺麗な受付台が構えられ、椅子や観葉植物が置かれている。

「はい、はい。何か御用ですか」

 奥から一人の女性が軽やかな足取りでやってきた。

 肩まで伸ばした髪に整った鼻筋。青色のスカートに白いシャツ、花丸運送と刺繍がされた橙色の上着を着ている。知的な雰囲気が漂っているがあどけなさも残っていた。年齢はそこまで変わらないだろう。


「冒険者ギルドから聞いてきたんですけど」

「仕事の依頼? ちょっと待っててね。書類持ってくるから」

 客というより友人に接するような態度。ギルドの受付嬢とはまるで違うが、この場所には合っている気がした。

「あっ、いえ、そうじゃなくて。花山大吉さんに用があるんです」

「ありゃりゃ。うちの社長また問題起こしちゃった。もしかして被害者?」

「ち、違います。花山さんには先日助けていただいて、そのお礼を言いに来たんです」

 もしあそこで会わなければ、今頃どうなっていたかわからない。街に帰ってから、すぐに彼のことをギルドで聞いたのだ。

「ご親切にどうも。でも社長はいないんだよね。もうちょっとで帰ってくると思うよ」

「外はちょっとしたお祭り騒ぎだぜ。これじゃますます人が増えるな」

 会話の途中で一人の男性が店に入ってきた。茶色の頭髪にスラリと伸びた手足。だらしなく緩んだ顔つきはどこか軽薄さを感じさせる。大吉たちと違い、花丸運送の服は着ていない。


「これは失礼しました。ご用件は何でしょうか」

 ラキを見つけると急に態度が変わった。表情が引き締まり、声音も変化する。変わり身の早さに驚いてしまう。しかもやたらと距離が近い。

「社長のお客さんみたいよ。ギルドから来たんだって」

「なるほど。しかし、あいつはここにいません。いない人間など放っておいてお茶でも飲みにいきませんか」

「い、いえ、遠慮しときます」

 断りながら距離を取る。このままいけば手を握ってきそうな勢いだった。

「それよりどこにいるかわからない。予定聞いてないんだけど」

「今日はカントさんのところじゃないか。帰ってくるまでもう少しかかるぞ」

「そこってカントの武器屋のことですか?」

 男が笑顔で頷く。その店なら何度か行ったことがあった。まだ帰ってこないなら直接会いに行くことにする。


「この人混みの中で一人は危ないな。私が送っていきますよ」

「け、結構です。一人で行けますから」

「あんたにはまだ仕事があるでしょ。さっさと働け」

 これ以上手間をかけさせるわけにはいかない。何せこれから世話になるかもしれないのだから。


「ありがとうございました」

 お礼を言って外に飛び出す。今は一刻も早く彼に会いたかった。

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