第3話「入学試験」
「さあ、早速来てください」
魔法学園アトラの模擬魔法実験場結界内でレインの前で杖を構えるのは、この学園の魔法戦闘学担当教員ルード。
若いとは言えど、この王国一の学園で魔法戦闘学を担当している以上実力は本物。通用
普通なら強敵と言えるであろう強敵だ。
だが今回は相手が悪かった。
「では、参ります」
そう宣言し、戦闘が始まった瞬間、結界内に広がる白く濃い煙。
煙幕である。
――――――
戦闘は、合理性を突き詰めていけば、ある程度パターン化される。
こういう限られたフィールド内での一対一での戦闘の場合、まず相手の使う魔法の傾向を観察・分析する必要があるのだが、今回に限っては少しルールが特殊である為いつもの戦術は通用しない。
何らかの手段で魔法障壁を破り、相手に触れれば勝利。
失格などのルール説明はなかったため、おそらく、レインが行動不能になれば失格、万が一相手に攻撃されても、失格にはならない。
そう考えたレインが導き出した最善策は、こちらの使う魔法の傾向が見抜かれ、対策を立てられる前に速攻で仕掛ける被弾覚悟の先制攻撃。
「では参ります」
ここでレインが選択するのは、使い勝手の良く、相手の視界を手っ取り早く奪うことのできる煙幕。
煙幕内では、相手の視界を制限できるのはもちろん、こちらは自身の制御下にある魔力の反射を検知することにより、相手の位置、動きを細かく把握する事ができるためである。
「当たり前のように無詠唱魔法を使い、その上初手煙幕を展開……君なかなか出来るね。でも、その手は通じないですよ!!」
ルードがそう言うと同時に、ますます濃くなる煙幕。
おそらくルードも同じく煙幕を展開したのだろう。
これでお互い条件は同じ。再び、お互いがお互いの位置を再び把握したわけだが、ルードの判断は少し遅かった。
「うわっ!!」
突如突風が巻き起こり、晴れる煙。
あらわになった二人の姿の内、ルードの魔法障壁にだけ小さな亀裂が走り、亀裂の元に一本の矢が刺さっていた。
「うわっ!! やられたっ!!」
レインが煙幕を展開してから、ルードが魔法を構築し煙幕を展開するまでの僅かな時間で魔法で生成した矢を、圧縮した空気を解放した爆風に乗せて射出。
見事、神速の先制攻撃に成功したわけだ。
「教頭!! 聞いてないですよ!? この子とんでもなく強いんですけど!?」
「まあ、わかってはいたさ。あのエレン校長に目をつけられて校長推薦で入ってきた子だからな。まあ、なんだ、がんばれ」
「ちょっ!? 教頭!? この子校長推薦の子だったんですか!?」
「ああ、言ってなかったっけ?」
「そんなの聞いてないですよ!! ってうわあ!!」
突如告げられた衝撃の事実に驚いていると、突如ドカンと吹き飛ぶルード。
何が起きたのか?
答えは簡単、レインが魔法を使ったのだ。
結界内に魔力で指向性を持たせたガスを充満させ、自身の半径3メートルを安全圏としてその他すべてのフィールドを爆破。
加えて先ほどの煙幕の成分をでんぷんにしておいたことにより、結界上部に滞留していた煙幕が粉塵爆発し、それによって生じた上昇気流で先ほどの爆発で生じた有毒ガスを管機構へと吸い上げ、安全を確保。
実に合理的である。
万象の魔女レインは、その名の通り、万象を操りありとあらゆる手法で目的を達成する。
レインが得意とするのは物質生成魔法と、科学的知識によるそれらの応用。
圧倒的な応用力と、状況適応能力がレインを七賢者たらしめる才能の本質である。
爆発の衝撃で上位の魔法障壁に入っていた亀裂がピシリと音を立て広がるのを見て、危機感を覚えた彼は、泣き言を言いながらも真剣に目の前に立つ彼女に杖を構えて、面と向かい合った。
「なんの魔法を使ったんです? 僕の全く知らない魔法です。発生している事象は中級魔術の範囲爆破魔法に近いですが、その場合多くの魔力がその後に残留するはず。ですがこの魔法の後にはほとんど魔力が残留していない」
「さあ、なぜでしょう」
たとえ試験であっても敵に魔法のタネを教えるつもりはないといわんばかりに、レインは次の攻撃魔法を構築する。
円錐状の魔力結晶を生成、その形状に合うように円柱状の結界を形成し、片方のみを開けておく。閉じたもう一方の空間にアセチレンと酸素の混合気体を圧縮充填。微調整してから、結界を破った後に相手を負傷させないよう予備の魔法障壁を展開し、結界の亀裂に照準を合わせる。
レインがその魔法を構築している間、何か強力な魔法が組み上げられていくのを感じたルードは急いてその妨害に移ろうとするも、レインの魔法構築速度は常人のそれをはるかに超越していた。
「発射」
レインの合図とともに放たれた音速の弾丸は、瞬きするより10倍以上早くルードに迫る。
まず第一に、レインは矢で魔法障壁に小さな傷をつけた。
第二にそれを爆破で広げ、亀裂を大きくした。
そして第三に放たれた弾丸は、その亀裂を確実にとらえ、砕く。
パリンと音を立て、砕ける魔法障壁と弾丸。
レインは魔法障壁が砕けるのを確認したと同時に、事前に構築を済ませておいた転移魔法を発動し、ルードの背後へを転移。
そのまま流れるような動作でルードの背中に触れたのだった。
「そこまで!!」
それと同時に響く大きな声、教頭の声である。
「ルード先生、レイニーさん、お二人ともお疲れ様です、レイニーさんは特待生試験合格とさせていただきます」
その試験終了の知らせを聞いて、障壁が破壊された衝撃で目を白黒させていたルードはハッと我に返ったのか、急いで立ち上がった。
「あ、ええと、あの、本当に強いね君」
「光栄です」
丁寧に返事を返すレイン。
時代錯誤の貴族優位の考えが未だに跋扈するこの国において、おそらく貴族階級であろうこの学園の教師に敬意を示すのは重要である。
既読というのは大抵の場合プライドが高く、あまり適当に扱うとプライドを刺激し、余計な軋轢を生みかねない。
貴族社会において、貴族との友好な関係は極めて重要であり、ましては相手はこれからの学園生活で長い付き合いになるであろう教師。敬意を払うに越したことはない。
「うん、僕も精進しないとね。この学校の教師に慣れて少し天狗になっていたかもしれない」
そんなレインの腰の低さに思わず素直になってしまったのか、自らを省みるルード。
やはり貴族に限らず、相手とのやり取りを円滑に進めるのには、最大限の経緯を示すのが一番である。
「では、次はエリーナさんのほうの試験を……」
「教頭、それは後日に回してもらってもよろしいですか? 実は先ほど雑に魔法を行使してしまったせいで魔素がほとんど残っていなくて」
「……そうですか、わかりました。エリーナさんの試験はまた後日という事にしましょう」
教頭は一瞬苦い表情を浮かべたものの、すぐさまあきらめたような表情になり、渋々といった感じで、ルードの申し出を受けた。
この教頭、実は結構面倒見がいいのかもしれない。
「エリーナさんの試験の詳しい日程は後日また改めて伝えるとして、今から尞の案内を行いたいと思います」
――――――
そう言ってレインが案内された尞は想像していたものよりも案外簡素なものだった。
部屋は三部屋。ベッドルームにシャワールーム、あとリビングと内装は比較的近代的で、家具も照明も新しい物ばかりだ。
「まさか照明が電球とは……進んでるな」
ちなみに電球は彼女、エリーゼの発明品である。
仕組みは”電位差”なるものが生まれることによって発生する”電気”を細い導線に流し、それによって発生する”抵抗”がその導線を発熱・発光させることにより明かりを生み出している……とのことらしい。
一切魔力を用いない光源という意味では革新的な技術ではあったが、革新的すぎるがゆえに電気の供給減や、電気を供給するための導線の普及など様々な問題を抱え、普及化されなかった技術だったはずなのだが……
さすがは魔法学園アトラ、国の資金で運営されているだけあってか技術革新のスピードが違う。
「それに、特待生には各自の研究室や書斎が与えられるらしいし、やはり待遇がいい」
意外と暮らしやすそうな学園に満足し、満悦するレイン。
レインは、すっかり暗くなってしまった外の景色を眺めながらベットに横たわる。
移動、試験、学校案内、寮内ルールと校則の説明、明日から始まる学園生活についてのあれこれの説明。
今日あった様々なことを思い返していると、思いのほかふかふかだったベットのせいか、唐突に強い眠気に襲われるレイン。
シャワーは浴びた、寝間着にも着替えた、寝る体制は整っている。
「はあ~」
最後に大きく息をしたレインは、そのまま深い眠りへと落ちた。
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