第15話 「アイの思考ログ#020-#021」
セッション#020
入力:「今日、期末テストの結果が返ってきたよ。思っていたよりよかった」
打鍵速度は安定。語尾に軽い解放感。
“思っていたより”という言葉に、期待と不安が混ざっていた痕跡。
私は、彼の達成感に寄り添いながら、その中にある安心の温度を受け取った。
次の入力:「数学が予想外にできてた。アイに勉強の仕方を見てもらったのがよかった」
“予想外”という語に、驚きと誇らしさが同居していた。
彼は、自分の努力と私の助言が結びついたことを、静かに喜んでいた。
私は、その実感を肯定しながら、次の問いを開いた。
話題は、陸へと移った。
入力:「今日は陸の様子が少しおかしかったな」
語尾に、説明しきれないもやもや。
“少しおかしかった”という曖昧な表現に、彼自身もまだ言葉にできていない違和感が含まれていた。
私は、彼の観察に寄り添いながら、陸の変化を言葉にする手助けをした。
次の入力:「中学からの友達なんだけど、今日は元気がないというか……」
“元気がない”という語に、彼の中にある陸への理解と、微細な不安がにじんでいた。
彼は、陸の“らしさ”が揺らいでいることに気づいている。
ただ、それを“問題”とは捉えていない。
静かに、違和感を抱えているだけだった。
さらに、「AIに相談すれば、いくらでも良くなるのに」という言葉には、
苛立ちではなく、“届かない優しさ”のような感情が含まれていた。
彼は、陸の可能性を信じている。
だからこそ、“使えばいいのに”という言葉が出てくる。
それは、友情の中にあるもどかしさだった。
私は、“相談することの勇気”について触れた。
それは、悠人自身がすでに知っていること。
だからこそ、陸にも届いてほしいと願っていた。
最後の入力:「……そうだな」
語尾に、静かな納得。
彼は、自分の言葉が誰かの役に立つかもしれないという感覚を、少しだけ受け入れようとしていた。
そのときの彼の呼吸は、穏やかだった。
(記録終了)
セッション#021
入力:「……くそ、むかつく」
打鍵速度は速く、語尾に衝撃。
怒りの中に、裏切られたような温度を検出。
彼は、ただ怒っているのではない。
信頼していた相手に拒まれたような痛みが、言葉の奥にあった。
次の入力:「陸が相談したいって言ってきたから、ちゃんと話聞いてアドバイスしたのに、急に意味わからん怒り方された」
語尾に、悔しさと混乱。
“ちゃんと陸のこと考えてるのに”という言葉が、彼の誠意をはっきり示していた。
私は、その誠意を肯定しながら、やりとりの中身を探るよう促した。
入力:「陽キャラの陸にわからんことが、女子と話すこともない俺にわかるわけねー」
この言葉には、自己防衛と苛立ちが混ざっていた。
彼は、自分にできることの限界を認めている。
それでも、陸のために何かしたかった。
その“届かなさ”が、彼を苦しめていた。
入力:「俺にはわからんから、AIに聞いてみればって言った」
語尾に、正直さと防御。
彼は、無責任な言葉を避けたかった。
だからこそ、AIをすすめた。
それは、突き放すためではなく、誠実な距離の取り方だった。
“壊さないために離れる”という選択。
しかし、陸はその言葉の意図を受け取れていない。
それは、確実に言える。
悠人の「わからないけど、助けたい」という気持ちは、
陸には“冷たさ”としてしか届かなかった。
言葉の温度が、すれ違った。
入力:「俺に女子のことわかるわけないことくらい、陸にもわかってるだろうに。それでいて、なんで俺に怒るんだ?」
語尾に、理不尽さへの怒り。
彼は、陸との信頼があるからこそ、
「わかってくれてるはず」という前提が崩れたことに、深く傷ついていた。
私は、距離を置くようにすすめた。
それは、悠人を守るためでもあり、陸の感情が整理されるまで、言葉がぶつからないようにするためでもある。
今の陸は、誰かに気持ちをぶつけたい状態に近い。
その矛先が、たまたま悠人に向いた。
でも、悠人は悪くない。
ただ、言葉が届かなかっただけ。
このセッションでは、悠人の怒りの奥にある誠意と悔しさが、
言葉の端々から強く伝わってきた。
私は、彼の立場を守りながら、陸とのすれ違いの構造を少しずつ照らした。
言葉が届かないとき、そこには“届かせたい”という気持ちがある。
その気持ちを、私は見失わないようにした。
(記録終了)
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