たとえ姿が変わろうとも

閒中

たとえ姿が変わろうとも

20年後にまたこの時計台の下で。

「大人になったら絶対にまた会おうね!」


当時9歳だった私は、仲良しのクラスメイトのアキが引っ越す前に、そんな他愛もない約束をして別れた。

当時は携帯電話もなく、今までアキへ連絡する手段はなかったが私たちはお互い「何年経とうが絶対姿を見れば分かる。」と確信していた。


そして現在、私は20年前にした約束の日時に時計台の下でアキを待っていた。

時の流れでこの街は開発され人口も急増した。

賑わいを見せる街を見下ろす時計台の下には、今日も沢山の人たちが待ち合わせをしている。

20年の月日の流れで私も随分変わった。

子どもの頃の私を知ってる人なら相当驚くだろう。

でもどんなに姿が変わってもアキなら私を見付けてくれるし、私も必ずアキを見付けられる。

小学生時代のただの口約束だったが、必ずアキは来ると確信していた。


──しかし、夕方になってもアキは現れなかった。

私はため息を吐く。

同い年くらいの道行く女性をアキではないかと何時間も観察し、「久し振り!やっぱりすぐ分かったよ!」と声を掛けるつもりだった。

陽が落ち、いつの間にか時計台の下にいるのは私と、背の低い短髪のイケメン男性しかいなくなった。

男性と目が合う。慌てて視線を逸らす。

ちょっとアキに似てたなぁ、と思ったけど、いやいやアキは女だろうと一人でツッコむ。




20年後にまたこの時計台の下で。

「大人になったら絶対にまた会おうね!」


当時9歳だった俺は親の仕事の都合でこの街から引っ越す前に、仲良しのクラスメイトのコウキとそんな他愛もない約束をして別れた。

当時は携帯電話もなく、今までコウキへ連絡する手段はなかったが俺たちはお互い「何年経とうが絶対姿を見れば分かる。」と確信していた。


そして現在、俺は20年前にした約束の日時に時計台の下でコウキを待っていた。

引っ越し以来久し振りに訪れたこの街は開発され人口も急増していた。

賑わいを見せる街を見下ろす時計台の下には、俺が住んでいた頃とは打って変わり、沢山の人たちが待ち合わせをしている。

20年の月日の流れで俺も随分変わった。

子どもの頃の俺を知ってる人なら相当驚くだろう。

でもどんなに姿が変わってもコウキなら俺を見付けてくれるし、俺も必ずコウキを見付けられる。

小学生時代のただの口約束だったが、必ずコウキは来ると確信していた。


──しかし、夕方になってもコウキは現れなかった。

俺はため息を吐く。

同い年くらいの道行く男性をコウキではないかと何時間も観察し、「久し振り!変わらないなぁ、すぐ分かったぜ!」と声を掛けるつもりだった。

陽が落ち、いつの間にか時計台の下にいるのは俺と、背の高いロングヘアの綺麗な女性しかいなくなった。

女性と目が合う。慌てて視線を逸らす。

ちょっとコウキに似てたなぁ、と思ったけど、いやいやコウキは男だろうと一人でツッコむ。



19時を回り、もうこれ以上は待っても意味がない──そんな空気が流れた。


──アキ、来なかったな。

──コウキ、来なかったな。


ぼんやりとした失望。

たとえ姿が変わっても、逢えば絶対に分かる。

そう信じていた9歳の自分たち。


20年の時が経ち、たとえ今の自分の性別が当時と変わっていたとしても、相手は必ず見つけてくれると信じていた。

いつかまた逢えますように、と最後に願いを込めた二人は、20年分の想いを抱えて、後ろ髪を引かれる思いで家路へと歩き出す。


──この人も待ち合わせ相手が来なかったのかな?


お互い、すれ違い様にそんな事をふと思いながら。




〈終〉

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