ep17.追い詰められた人間とWikipediaは信用するな。
「面白いネェ...!ハッハッハ!!」
俺が取り押さえていたドレッド男の不気味な笑い声が、荒れ果てたパチンコ屋に響いた。
ドレッド男は完全に俺が取り押さえているし、逃げ道であるパチンコ屋の出入り口は、ナノハのアイスウォールで完全にふさいでいる。たまたまここに居合わせた、ジジイと男性店員も無傷のまま保護できた。完全に警察俺達の勝ちのハズである。
なのに何故、この男は笑っていられる...!?
俺は恐怖にも似た、その不安感に身を震わす。
「な、なのは~...!なんかこの人、笑い出してるんですけど~!凄い気持ち悪いんですけど~!バッタ捕まえたら、変な液吐き出した時くらい気持ち悪いんですけど~!!もう放しちゃっていいかな、この人~...!」
「大丈夫だ、特人!!この笑いはアレだ!もうどうしようもなくなって、おかしくなっちゃった的なアレだ!だから大丈夫!」
「なら大丈夫か。」
俺はそこはかとない不安感を胸に抱きつつ、この男を拘束し続けた。
(及川がちゃんと仕事をしていればそろそろ応援が到着するはず...!)
そんなことを考えていた俺の顔を、拘束されているドレッド男がじっと見つめていた。まるで、自分が優位な立場に立っているかのような、そんな落ち着いた表情で。
「な、なに見てんだよ!俺の顔なんか見たって、小っちゃめのニキビしかねぇぞ!もう少しで警察の応援が来るから、それまでは暴れずに大人しくしてろよ!?」
しかし、ドレッド男は俺の言葉なんか気にすることなく、一方的に話を始めた。
「オレに協力しないカ?警察官。」
『協力』。その言葉は、理解不能かつ、限りなく突拍子のないものだった。
この男、ナノハの言う通り、本当におかしくなってしまったのか?
「あ、あのなぁ、俺は警察、お前は指名手配犯!なんでその関係で、協力なんて言葉が出んだよ...!あ、さては、ピンチだからって変なこと言って、油断させようとしてんだろ!?」
「いいから、一旦オレの話を聞けヨ。」
俺の取り押さえているドレッド男は、決してやけくそになって、こんなことを言っている訳ではないらしい。
男は至って冷静に、俺に話を始めた。
「このご時世、数少ない純地球人のオレが特能を使い、暴れまわっている理由。それは、オレがとある暴力団の指示で動いているからダ。」
「ほ、ほう。まぁ、独断で意味もなく暴れてる方がワケ分からないから、その方が理解できるな...」
「純地球人だったオレは幼い頃、今の暴力団に目をつけられタ。暴力団はオレの親を殺し、まだ幼かったオレを連れ出したんダ。団はオレを育て、訓練し、特能を扱えるようにさせタ。オレは今まで、暴力団の一員として従順にボスの指示に従い、働いて来タ。」
「働いて来たって、今日みたいに、建物を滅茶苦茶に壊すことを言ってんのか?」
俺は思わず聞き返してしまう。
本来なら、こんな指名手配犯とお話しなんかしてちゃダメなんだろうが、俺はこれが初出勤だ。大目に見てもらえるだろ。
ドレッド男は、未だ冷静さを保ったまま、俺の質問にしっかりと回答をする。
「何も適当に暴れてるワケじゃネェ。ボスから指示された店とか家に行って暴れるんダ。きっとボスがやってるシノギ関連だナ。」
「な、なるほど...。それで今回は、たまたまこのパチンコ屋で暴れろって指示されたワケか。」
俺はここに来て何となく、謎の大男事件の全貌が見えてきた気がした。
しかし、それでもこの男が俺に、『協力』を持ち出してきた意味が分からない。
「まぁ、お前が特能を使って暴れまわる意味は分かった。けど、その話がなんで俺達との協力に繋がるんだ?」
「簡単な話サ、オレはこの暴力団を潰そうと思ってル。だから潰すのを協力してくれないカ?」
「つ、潰す...!?」
その男から飛び出してきた、予想外なその単語に、耳を疑った。
「いやなんで自分の所属している団を潰すんだよ!?お前アレだろ、俺が知力250だからってふざけてるだろ!?Fラン大学生舐めんなよゴラ!」
「知力低いだろうなとは思ってたけど、そんな低かったのカ。...じゃなくて、団を裏切る理由はちゃんとアル。さっきも言った通り、オレは暴力団に親を殺されてんだヨ。俺は今まで順調に団の中で信頼を得てきたが、それはいつかボスを裏切って、ぶっ殺す為ダ。俺は一日だって親が殺されたことを忘れちゃいネェ。」
なるほど、復讐か。
まぁ某サスケ君も、そのモチベーションだけで全72巻分完走してたし、団を裏切るには十分な理由なのかもしれない。実際、暴力団がこの世から一つでもなくなれば、我々警察からしても嬉しい事ではあるだろう。
だ・け・れ・ど・も!!
だからと言って、この俺が無茶をする必要はなくないか...?
別にこの遥か未来の日本で、暴力団が一個多かろうが少なかろうが、俺が被る影響なんてほぼ皆無だろう。
だったらこのまま大人しくこの男を捕まえていた方が、俺の手柄にもなるしサキちゃんにも褒めて貰えるしで、良い事ずくめじゃないか。
ということで俺はこの男に協力する筋合いはない、ウン。
「えーっと、結論から言わせてもらうが、俺はお前と協力する気はない。暴力団を消してくれるんなら、俺たち警察からしても有難い事なんだろうけど、俺、別にこの世界を良くしようと思って警察してないから。たまたま公務員の職が、向こうから突っ込んできたから警察になっただけだからね。」
俺の言葉を受け、ドレッド男は久しぶりに、少し動揺したような表情を見せた。
「オマエ、警官の風上にも置けねぇ奴だナ...」
指名手配犯に若干引かれたが、別に気にするようなことではない。俺は充実した福利厚生と、職場にいる清楚系黒髪JKの為にこの仕事をしているまでだ。
こうして、俺の本性を垣間見たドレッド男は、今度は少し考えるような顔つきをした。
そしてしばらくすると、再び向こうから俺に話しかけてきた。
「...分かった、じゃあこちらから報酬を出ス。それでオレと協力してくれないカ?」
男が提示した条件は、シンプルイズベスト、『報酬』であった。
その瞬間、都営大江戸線の六本木駅くらい奥底にある俺の心が、たしかに揺れ動いたのを感じた。
続くッ!
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