ep16.推理物は途中から台詞少ない奴が犯人。

 西暦2324年 荒れ果てたパチンコ屋内にて...



「分かったぞ!この中の誰が嘘をついているかがなぁ!!」


 俺は遂にこの事件の真相を明らかにし、高らかに宣言した。


「と、特人!一体誰じゃ!?誰が嘘をついていたんじゃ!?」


 ナノハがこの名探偵石塚特人に縋りつき、答えを聞こうと興奮している。


「まぁそうあわてるなロリっ娘。この俺が導き出した大男の正体、それはな......」


 俺は人差し指をピンと伸ばし、容疑者三人の方へ向ける。

 そしてその人差し指は、その三人の中の、ただ一人に向けられた。


 それは......


「貴方だッ!!ドレッド野郎こと、『堀内・ナミ・ジュン18号』さん!!」


「な!?」

「なんじゃと!?」

「ほ、本当か特人!!」


(え、コイツ等マジで分かってなかったの...?)


 とは言ったものの、流石に分かりやすすぎるだろ、これ。

 もしかしてこの展開って、逆に予想外の人間が真犯人で、ここからもう一波乱あるみたいな流れか...?

 いや、むしろそうであってくれ!初事件の謎が、こんな幼稚園年長さんでもギリ分かるような低レベルなんて、俺は信じたくない...!!

 と、願う俺に、堀内が至って静かに口を開いた___



「な、なななん、何の証拠があって言ってんス、スカ!?」



(____滅茶苦茶動揺しとる____)


 はぁ、やっぱりこうなのか。もうコイツで確定やん、うん。

 俺は確かに真犯人を当てることに成功した。ただなんだ?このやるせのない虚しさは。...右京さん、貴方もこんな気持ちだったのですか?

 と、そんな虚無に苛まれていた俺に、ふとナノハが質問をしてきた。


「ど、どうして特人はこの堀内ドレットが大男の正体だと思ったんじゃ?」


「いや、『どうして大男の正体だと思ったんじゃ?(裏声)』じゃねぇよ、このポンコツ中二病ガール。俺、一目見た時からコイツだと思ってたしね?あの大男と同じ黒光りする筋肉、あの大男と同じで何故か上裸、もうこれだけで確定でしょ。堀内確定ー。」


「い、いやワンチャンこっちのハゲジジイが、特能使って黒くなって巨大化してたりする説も...」


「ンなわけッ!...いやさ、俺も万に一つくらいの可能性であり得るかな~、って思って一応事情聴取したよ?けどさ!もうこの堀内犯人説が確固たるものになっただけだったから!!」


 そう。正直、初めからどうせコイツだろうとは思ってたが、本当にコイツだったんなら指摘しておけばよかったんだ。だって今のところの成果、オカズ三個失って半狂乱したのと、ジジイのブツを目に焼き付けてしまっただけだもん。事情聴取でまさかここまでの被害を被るとは想像できないだろ。


 ...しかし堀内は、こんな時でも往生際悪く反論をしてきやがった。


「じゃ、じゃあ名前と地毛の件はどうなったんだヨ!俺の名前は宇宙人とのハーフらしい名前だし、髪は金色ダ!!」


「あぁそれね。名前はまず、偽名だろ。なんだよ『堀内・ナミ・ジュン18号』って。いや未来人は名前変だけど、それにはミドルネームに遊〇王関連のワードが付くって法則があんだよ。お前のその名前は、ただ俺の癒しキャラクター名を奪っただけだろ!!...あぁイライラするゥッ!!」


 俺は再び半狂乱モードになりそうになったが、横に居たナノハが何とか俺を落ち着かせてくれた。


「落ち着くんじゃ特人!これは仕事じゃ、シ・ゴ・ト!!次はこの男の地毛が金じゃない証拠を言ってくれ!!」


「フゥ...!フゥ...!フゥーー!!...よし、いいだろう。...ナノハに免じて、次は髪色の話をしてやる。まぁ結論から言えば、堀内コイツは星人とのハーフじゃあない。」


「あ、『ペイパン星人』な?イパンじゃなくてイパンじゃから。」


「......ふっ、それは何故かって?それはな!俺の知り合いに本物のパ......ペイパン星人とのハーフが居るからだよ!!」


「ナニッ!?」


 そう、俺が及川との何気ない会話の記憶から導き出した、嘘を見破る鍵...

 それは、彼女及川がペイパン星人とのハーフだということッ!!

 しかし、ナノハはそもそも及川がペイパン人とのハーフだという事実を知らなかったらしく、首を傾げた。


「な、なぁ特人。誰じゃ?そのペイパン星人とのハーフの知り合いって。」

「あぁ、ナノハはまだ知らなかったか。...俺達のエクストラデッキな上司と言えば、...さァ、誰だナノハ!」


「あ!及川のことか!!」

「その通り!そして彼女の髪色は!?」


「銀髪!...なるほど、ではこの男が金髪なのは、おかしいというコトか!!」

「そういう事だ!!」


 堀内.....いや、本当の名前は知らないが、このドレッド野郎はこれで完全に追い詰められた!

 そしていずれここにも応援が来る.....ハズ!!それまで俺とナノハでこの男を確保する!


 と、その時、ドレッド男が俯いたまま口を開いた。


「......ああ、そうサ!この俺があの大男の正体だヨ!!俺はこの時代にほんの数人しか居ないと言われている、純地球人!だから特能を使って色んな場所で暴れてやったのサ!」


 その男は開き直ったように大声を張り上げ、自身の正体を明らかにした。


「遂に正体を現したな!!ここでついでに聞いておくが、今まではどうやって事件現場から切り抜けてきた!?お前は消える大男として有名だったんだぞ!」


「...エ?あぁ、通常時の体でさっきみたいに白目剝いて倒れてれば、勝手に搬送されてたから。いつもそうやって離れてたけド。」


(いや未来の警官達、杜撰ずさんすぎるだろ。それで『消える大男』とか二つ名付けてたの?恥ず。)


 まぁ随分適当だった、消える大男という名前の由来も分かった所で!

 俺は咳払いをして、いかにも警官らしい台詞を放つ!!


「ゴホン!...一体なぜそんな事をしたんだ!一体なんの目的があって!...これは立派な犯罪ですよォ!!」


「オット!目的か、そいつは言えねぇナ!......そして俺は、こんな所で捕まってるワケにもいかないんだヨ!!」


 そう言うと、ドレッドの男は突然走りだし、パチンコ屋の出入り口へ向かう。

 コイツ、このまま強引に逃げる気か!!


「逃がすか!」


 俺が男の前に立ちはだかり、逃げ道を塞ぐ!


「クソっ!!そこを退ケ!」

「どけって言われてどくヤツが何処に居んだよっ!」


「...ア!あんなところニ!!」

「...お前さぁ、そんな古典的なひっかけにかかると思う?俺のこと馬鹿にして__」


「Kカップのお姉さんがッ!!」

「おいナノハ!何か写真を取れるものをこっちにッ!!___って!しまった!!」


 俺はドレッド野郎の巧みな話術により、目線を逸らしてしまった。ドレッド野郎はその隙を見逃さず、すかさず俺を交わして出入り口へと接近していく。


(まずい!このままじゃ男を逃がしてしまう...!!)


 そして男が出入り口まであと数メートルという瞬間、突然、後ろから声が聞こえた。



「『アイスウォール』ッ!!!」



 それは、ナノハのアイスウォールの合図であった。そして声と共に、店の出入り口には最硬の強度を誇るアイスウォールが聳え立つ。


「よくやったぞナノハ!」


「当たり前じゃ!わしはKカップに靡かないからのぉ!!」


 男は突然現れたその氷壁に驚いたのか、その場に立ち尽くした。


「なんダ...これハ...」


(よし、今が好機!!)


「いくぞ、『気づいたらそこに』!!」


 俺は自分の特能を使い、ドレッド男の背後に、回り込む。そしてそのまま男の腕を抱え込んで、動きを封じようとした。

 男は抵抗するかと思われたが、意外にもほとんど抵抗されることがなく、あっけなく俺によって動きを封じられた。恐らく、俺らの予想外の特能に、理解が追い付かなかったのだろう。


「ど、どういうことダ...!何故一介の警察官であるお前らに、特能が使えル...!?この時代に生き残っている純地球人はほんの数人だけなんだゾ!!」


「ハハッ!残念なことに、俺らはこの時代の人間じゃねーんだよ!特課の名前、覚えておくんだな!」


「その通り!ちなみにわしは九尾の生まれ変わりでもあるぞ!!」


「あナノハちゃん、これ以上混乱させたくないから今は余計なこと言わないで?」


 俺はこの男を取り押さえ、ナノハはアイスウォールを補強し続けている。更に奥にいる男性店員とハゲジジイも、無傷のままだ。


 つまりそう、俺達の完全勝利である!!


 ハズなのだが.........



「面白いねェ.....!ハッハッハ!!」



 俺の取り押さえていたその男は、不気味にも笑い始めたのであった...




 続くッ!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る