ep13.時々俺より日本語上手い外国人居る。

 西暦2324年 パチンコ屋店内にて...



(し、死んでるやんけェェェェーーーー!!!)


 俺はブルース・リー顔負けのバックステップでそこから距離を取ると、ナノハにしがみついた。


「な、ナノハちゃぁんッ!!こ、これ死んでるって!!...あーもうヤバいよ!完全に仏さんと目が合っちゃったよ!いや、向こうは白目向いてたから正確には目があったとは言わないか...ってそういうコトじゃなくってッ!!」


 俺は初めて目撃した死体というモノに、後悔にも似た恐怖心を着々と募らせていた。

 米花町ではこれが日常茶飯事というのだから恐ろしい。


(あーもう完全に油断してた!けどそりゃそうだよね!こんな荒らされてたら皆生きてるとは限らないよね!けど覗いたらすぐそこに血まみれの白目って反則でしょ!観覧車乗ってるカップルより距離近かったよ!!あーあ、1週間は1人でトイレ行けなくなっちゃったッ!)


 なんて俺が涙目になりながらナノハに縋りついていると、ナノハは鬱陶しそうに俺を引き剥がしながら口を開けた。

 こんな衰弱した、か弱い男子大学生を引き剥がそうとするなんて鬼かコイツは。


「いや生きておるって。だからさっさと助けるぞ。」


「いや絶対死んでる!生きてる人間がしていい白目じゃなかったもんアレ!」


「だから、生きてるって!さっき小声で、『ワオキツネザル』って呟いてたし!」


「......ンなわけねぇだろォォォ!!おいクソ中二病ッ!お前仏さんの前で言っていい冗談じゃねぇぞ!!ドレッドの幽霊に呪われても知らねぇからな!っていうかなんだワオキツネザルって!ペンギンズですか!?fromマダガスカルですか!?懐かしいなこのヤロォ____」


ふと、その仏さんのほうから声が聞こえた。


「ワオキツネザル...」ボソッ...


「......」


(つ、呟いたァァァーーーーー!!!)


 俺は驚きで硬直しそうになった足を無理くり動かし、彼の上の瓦礫に手を伸ばした。


「おい生きてんじゃねぇか!生きてんなら先に言いやがれ!」


「いや言ってたじゃろ!生きてるって!ワオキツネザルだって!!」


 俺とナノハと店員の三人は力を合わせて、何とか一番重い上の瓦礫を退け、下に居た例の、”ドレッド血まみれ白目剥き黒人”を引きずり出した。何故か上半身が裸であったが、事件の時に服が破れてしまったとかなのだろうか。

 その人は今は気絶しているようで、白目を剥いているが微かに息をしていた。


「おい特人、これって人工呼吸とかした方がいいんじゃないか?」


「シャーラップッ!俺のファーストキッスが血塗れ白目野郎に奪われて良いワケねぇだろ!!大丈夫、ここは俺の話術で何とかすっから!」


 俺はひとまず、彼を起こすために声をかけることにした。


「おーい!聞こえますかー!?そんな白目向いてたら日向一族になっちゃいますよー!八卦六十四掌ですよー!」


「.....ン、ンン...?」


 俺の声に反応するように、彼が息を漏らした。

 よし、もうあと一押しだ。


「あ!ここに自称九尾の生まれ変わりガールが居るんですよ!ほら、もうほぼ人柱力!会いたいでしょ!?」


「おい特人!わしを引き合いに出すな!っていうかわしは人柱力じゃないし尾獣玉も撃てん!!」


「...ン...、ンンっ...!」


 いいぞ!徐々に彼の反応は大きくなっている!やはり外国人にも通用するジャパニーズアニメの力!!

 そしていよいよ、ついに彼の眼が覚める...!


「.........ハァッ!!!」


「うお!!眼球が半回転くらいした!キモ!!」


 彼は目を覚ますと同時に眼球がグルリと縦回転し、瞼の裏から黒目が出現した。

 彼は肩で息をしながら周囲を見渡していたが、この変わり果てた景色に理解が追い付いていないようだった。


「あ、大丈夫ですか?」


「.......」


「え、えーっと、アーユーオーケー?」


「あ、日本語で大丈夫っス。」


「あ、うす。」


(....気まず。っていうかなら最初から反応しろや!)


 彼はおでこの血を拭うと、多少よろめきながら立ち上がった。

 そしてズボンについた汚れを叩きながら、俺とナノハに質問をした。


「僕はちょっとおでこを擦切っただケ。他の人は無事なんですカ?」


「あ、えっと今のところ、この店員さんと向こうのハゲ.....おじいさんと、あなたの三人を助けた感じで。あの大男が暴れてた時、店内に何人くらい人が残っていたとか分かりますか?」


「あぁ、そういうコトなら大丈夫。今日この店釘がギチギチでゴミみたいだったから、客は僕と向こうのおじいさんの二人だけだったヨ。」


「あっ、...スゥーーッ、成程...」


「..........」


(コイツ店員さんの前でゴミとか言い捨てたよ!あーあ、店員さんも叱られたの犬みたいな顔になっちゃったし!)


 一旦、俺は向こうで座り込んでいたハゲジジイを連れてきて、この店内にいる全員を一か所に集めた。

 ここに居る全員は、俺、ナノハ、ハゲジジイ、男性店員、ドレッド黒人の計五人だ。そして五人が一か所に集まった時、中心に居たナノハが口を開いた。


「ようし、今の状況を整理するぞ!まずこのお店で暴れていた大男は皆知っておるであろう。奴はこのお店から出ていない!!そしてこの店内に居たのはわし含めてこの五人!つまりそう、」

「犯人はこの中に居るッ!!!」


「なっ!?」

「なんじゃと!?」

「ナニ!?」


「あ、おい!わしの台詞!!」


(こいつら良いリアクションするなぁ。)


 俺に決め台詞を奪われたナノハがポコスカ殴ってきた。

 

 一通り殴りすんだのか、ナノハは拳を止めて息を整えてから、俺に耳打ちをしてきた。


「おい特人、分かっていると思うが、あの大男は絶対『特能』を使っている。つまり、純地球人という事じゃ!この三人の中から純地球人を見つければ、自ずと大男の正体はソイツになる!あと台詞奪った件は後でシバく。」


「よし、じゃあ尋問って事だな!ちなみに台詞は奪われたお前が悪い。」


 と、いう事でこの三人に尋問を始めようと思ったが...

 俺は視線をドレッド黒人に移す。


(絶対コイツが犯人だろ)


 だってコイツ一人だけ上裸だし?あの大男も上裸だったし?っていうかあの黒光りしてた筋肉、絶対コイツやん!

 身長は少し違うけど、絶対コイツーー!!


 俺はほぼ確信に予感を持っていたが、今はぐっと心の中に抑え込んだ。

 思い込みは捜査の敵だって、心の中の右京さんが言っている!


 俺は咳ばらいをし、三人への尋問を始めた。


「ゴホン!...さて、貴方達三人には言っていませんでしたが、実は俺とこのロリっ娘は、警察です!!」


「おいあんまロリっ娘って言うな。」


「なので今からお三方には、事情聴取を行います!俺の質問には、正直に答えてください!」


 未来に来る前現代では、職務質問を数えきれないほど受けてきたんだ。警察の事情聴取なんてお茶の子さいさいよ!

 こうして俺の、未来に来て初めての警察っぽい仕事が始まった!!



 続く!

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