ep12.パチ屋にいるジジイは生命力が強い。
西暦2324年 パチンコ屋のにて...
俺とナノハは、未だ砂埃舞い続けるそのパチンコ屋に歩みを進めた。近づくと、より一層パチンコ屋の中が悲惨なことになっているのが分かる。
「こりゃひでーな。くっそぉー、俺の記念すべき未来パチンコ初来店がこんな形になっちまうとは...」
「本当にすごい有様じゃのう。あの大男は一体どんな馬鹿力をしておるのじゃ...」
足場は瓦礫だらけで、パチンコ屋の店内に入るのも一苦労であった。
まぁ、瓦礫と言ってもここは現代のコンクリートのような建物ではない。なにやらガラスとプラスチックのあいだような破片や、パチンコ台に使われているらしい軽い鉄のような素材がいっぱい落ちている。
「そういえばナノハ。この店の中に居た人たちは外に逃げたのか?」
「あ、大男が暴れている間に、店員らしき服装を着た人間が何人か走っていったな。ワシが見たのはそれだけじゃ。」
「そうか。....んまぁ今は一旦大男の居場所を探るのを優先しよう。」
俺とナノハはこの出入り口以外から大男が逃亡した可能性を考慮し、二手に分かれて壁に穴が空いていないか探すことにした。
俺達が壁伝いに進んでいる途中、店内の砂埃が収まってきて、なんとか全体の様子が見渡せるくらいにはなっていた。
「お~いナノハ!こっちはあの大男が逃げ出すような穴は無かったぞ!そっちはどうだ!?」
「こちらも壁はべこべこに凹んでおるが、それらしき穴は無かった!」
よし、となるとまだ大男はこの店の中に居るはずだ。けれど辺りを見渡しても、それらしき人影はない。
この瓦礫の山になった店内で、あのサイズの人間が隠れることは不可能な気がするのだが...
その時、近くの瓦礫から、声が聞こえた。
「だ、誰かいるのか?瓦礫に挟まって動けないんじゃ...!助けてくれ...!」
そう、それは生存者の声であった。
「...!お、おう!今助けるから待ってろ!」
俺は急いで声のする方に行き、瓦礫をかき分けた。
そして瓦礫に挟まった、一人のおじいさんが目に入る。どうやらおじいさんは鉄骨のような長いものに足が挟まり、抜け出せなくなっているようだ。
俺はその瓦礫を両手で抱え込み、上に持ち上げる。パチンコのハンドルを捻って鍛え上げたこの筋肉がなければ、この瓦礫は持ち上がらなかっただろう。
俺は息をするのも忘れ、無我夢中で瓦礫を退けた。
「ゼェ、ゼェッ!ングッ!!...フヒュウー!ヒュー!...大丈夫か、爺さん!」
「あ、あぁ、おかげで助かった。......けど、ちょっと疲れすぎじゃね?もっと運動した方がいいよキミ。」
一瞬、このジジイをより深い所に埋めようか迷ったが、俺は一応腐っても警察だ。ここは老い先短い命に免じて許してやろう。
それより、今はナノハに現状報告だ。
「お~いナノハ!今こっちでハゲジジイを一人救出した!」
「おいハゲって言った?ハゲジジイって言った?」
「他にももしかしたらハゲ、じゃなくて生存者が埋もれてるかもしれない!今は一旦大男の捜索は後回しにして、生存者の救出を第一にするぞ!」
声が届いたのか、ナノハも動きを止めて俺の方を振り返ってきた。
「おお!特人が正しいことを言っておる!明日は血の雨が降るぞ!」
「俺の発言でそんな超常現象は起きねぇッ。」
その後、俺とナノハは瓦礫の下をくまなく探り、他にも生き埋めになっている人が居ないか捜索した。
すると案の定、ナノハが一人生き埋めになっている男性を見つけ、救出した。どうやらその男性はこの店の店員らしい。
そして更なる生存者を探し始めた俺の背に、ナノハが声をかけてきた。
「なぁ特人よ!こんな瓦礫の山を二人だけで探すなんて効率悪くないか?」
「...確かに」
「お主、及川から貰ったと言っておったタブレットがあったじゃろ。それで及川に応援を呼んだりできないのか?」
「...なるほど。やってみます」
「これだから知力ステータス250は....、やれやれ」
「おい聞こえてるぞクソガキ。」
俺は例のタブレットを取り出し、適当に画面をポチポチっと押してみる。すると、連絡先が一覧に表示されたページを見つけた。俺はそこから『及川・エクストラデッキ・梅子』の名前を見つけ出し、何とか彼女に発信をすることに成功した。
この間も、一応ナノハには生存者の捜索を続けてもらっている。
着信音が数回続いた後、無事及川へと電話がつながった。
「あ、もしもし及川さぁん?こちら特人だけど」
「....今、この電話の通知のせいでフルコン逃したんやけど。フルコンより大切な電話か?もし大した用やなかったら後で蹴り飛ばすで?」
「いやアンタ仕事中だろ。なに当たり前のように音ゲーやってんだよ。...じゃなくて!今警視庁の近くのパチンコ屋に居るんだけど、そこに大男が出たんだよ!それで大男が暴れまわってもう大惨事なの!」
「それマジ?もう大男見つかったん?どうせ暫くは見つからへんからゆっくりできると思っとったのに...」
「テメェは本職警官だろ。....とにかく!けが人とかも出ちゃってるから救急車とか呼んでくれない?あと、大男もまだ店内に居る可能性が高いから、応援も呼んで!」
「おぉ、了解了解。...なんや、ジブン結構冷静に行動できるやん。」
「こちとら昔から相棒シリーズ見てたんだよ!右京さんの背中見て育ってンすわ!」
「そうですか(適当)。ほな頑張ってなぁ~」ブチッ!
「.....」
(あの銀髪女、速攻で切りやがった。っていうか全体的に軽すぎだろ。本当にアイツを信用して大丈夫か...?)
俺は及川を信用しきれないまま、生存者の捜索に戻ろうとした。
その時、ナノハが俺の名前を呼んだ。
「特人~!ちょっとこっちに来て手伝ってくれんか~!?」
「ん?あぁ、生存者だな?今行くから待ってろー!」
ナノハとナノハがさっき助けた男性店員は協力して瓦礫を退けようとしていたが、それでもその瓦礫は動かないらしく、二人は手こずっていた。
まぁここはあのハゲジジイも救った俺の剛力で助っ人してやろう。
俺はナノハと店員の傍に駆け寄った。
「この下に埋まっちゃってる人がいるのか?」
「そうじゃ。ほれ、瓦礫の下を覗いてみろ。」
ナノハが足元の瓦礫を指さす。
(覗いて見えるってことは、割と浅い所に居るって事か~?どれどれ...)
俺は身をかがめ、ナノハが指さした瓦礫の下を覗いた。
「大丈夫ですか~?今俺達が助けますから落ち着いて__」
そこで、俺は覗いてしまったことを後悔をした。
俺の眼の先に居たのは...
白目を剥いて血を流している、ドレッドヘアの黒人であった。
(し、死んでるやんけェーーーーーーーーーー!!!!)
続く!
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