第二章 バディは中二病九尾ガール

ep8.上司に好かれる奴は同僚から嫌われてる。

 未来 特課オフィス前にて



「うっぷッ!....よ、よし!なんとか今回のタイムリープでは吐かずに済んだぞ!俺も慣れてきたって事かな!!」


 俺は無事ノーゲロでタイムリープを済ませ、例の特課のオフィス前まで辿り着いていた。

 昨日は初めて未来に来て、急に特課に配属されちゃったり、夜中に二重ストーカーで職質受けたりして大変だったけど、今日からは本格的に未来での仕事が始まる訳だ。

 正直なところ、仕事をしたいのかと聞かれれば、「してぇ訳ねぇだろ印税で生活してぇよ」と返すぐらいのモチベーションしかない。


 しかしだ。

 俺は御覧の通り立派なゴミ大学生として生活しているわけで、当然就活なんか一切していない。

 そんな時に舞い込んできた公務員の職を捨てる阿呆が、一体どこにいると言うのだ。

 ということで今日もわざわざタイムリープして新たな職場に来たわけだが.....


(皆、もう着いてるのかな?及川は未来に住んでるんだから居るとは思うけど、サキちゃんとナノハは来てるんだろうか。あと、まだ会っては無いけど江口って人も一応特課の人なんだよな。もしいたら挨拶くらいしておいてやるか。)


 そんなことを考えながらも俺は特課のオフィスに顔を出す。


 「皆さん!おはようございます!」


 俺は体育会系顔負けの元気ハツラツな挨拶をオフィスの中に放り込む。やはり一日の始まりは元気にいかなくてはな!!


サキ「あ~ん!ナノハちゃんさいっこうっ!!何でほっぺたこんなムニムニなんですかぁ~??」


ナノハ「ちょっ、もういい加減やめてくれぇ~!あ、特人!お願いじゃ!サキをどうにかしてくれぇ!」


及川「あ、おはようさん。ちょっと今ゲームが良いとこやから待ってな.........チッ!コイツめっちゃ煽ってくんねやけど!ウザ!絶対中学生とかやん!!ウザ!」


(よし、平常運転だ。....ってかコイツらが警察って世も末だな。)


 俺は特課内のカオスを日常の風景として消化し、呼吸を整える。

 そしてまず第一に、サキちゃんに駆け寄ってみた。


「サキちゃーん!俺のほっぺも揉んでいいよ~!」


 ナノハよ、そこを代われ!俺が代わりにほっぺ揉まれてやっから!!


「うわ....なんかちょっとひげ生えててキモ。ゴキブリの足みたいな毛の生え方してますね。」


「...サキちゃんちょっと言い過ぎかも。結構しんどい今。」


 俺は身を挺して(?)ナノハをロリコンの手から解放し、席に座った。


(今は泣くな...!俺...!)


 俺は涙目のままオフィスを見渡すが、やっぱりこの三人しかいなくて、「江口」という人は未だ来ていないようだ。

 及川が未来版スマホみたいなやつでオンラインゲームをしながら、唐突に口を開いた。


「〇ねッ!!クソガキが!!........ふぅ、それじゃあ今日の仕事を伝えんで。」


 彼女は到底警官が口にしていいと思えない暴言を吐き出すと、一呼吸おいて俺達3人を見渡した。

 そして開口一番に飛び出した話題は、仕事に関することであった。


「今日はジブンらの記念すべき初仕事や。今回行ってもらう案件は.....『都市騒然!未来都市に潜む正体不明の大男を追え!!』や!」


「なんで川口浩探検隊パクッてんだよ。大体、なんで遥か未来の人間が川口浩探検隊シリーズ知ってんの?若い子には伝わらないからねコレ!」


 この俺がツッコミ役に回るなんて、一体何年ぶりであろう。

 いや、これは仕方がないんだ。この課は誰かがツッコミ役を引き受けねば、無秩序が極まれる!!


「...んで?その仕事の詳細は?」


 俺は心を静めて、及川に詳細を聞き出す。彼女は何だか困ったような表情で、俺の質問に答えてくれた。


「それがな、最近ここらで謎の大男の目撃情報が入ってるんや。しかもその大男は奇声を発しながら建物を壊しているときた。これをどうにかできんかて本部から特課に命令が来たっちゅう訳や。」


 なるほど。

 まぁ本来特課は、普通の警察官で対応できないような、特殊な事件を解決するために存在する課だ。

 だから普通ではない事件を担当することになるだろうとは思っていたが、まさか、いきなりこんな危険そうな事件に向かわされるとはな。


 でも、待てよ....?


「なぁ及川、そんな派手に暴れるような大男なら目立ちそうだし、簡単に見つけられるんじゃないか?」


「そう思うやろ?けどな、その大男は一通り暴れた後、忽然と姿を消してしまうんや...!」


 及川が、まるで怪談話でも語るように話してくれた。


(忽然と消える....か。うん、ベタな設定だな。)


 俺が半分マジメに、半分指から生えてる毛のことを考えながら話を聞いていると、及川が唐突に俺を指さした。


「ということで!今回は特人!そしてナノハの二人で捜査を進めてもらう!」


「......え?俺とナノハの二人?サキちゃんは?」


 俺はサキちゃんの方を見る。サキちゃんはただにこやかにソファに座っているだけだ。

 一方、及川は俺の疑問に不思議そうな顔をした後、何か納得したように口を開いた。


「....あぁ、一回この課の序列をはっきりさせておくか。」


(序列?なんかちゃんと組織っぽくしてきやがったなこの関西娘。)


 その関西娘が続ける。


「まず!第一に、一番下っ端は特人とナノハや。」


「あ、うん。それは何となくわかってた。」


「そうじゃったのか!?わし下っ端なのか!?」


 ナノハはかなりショックを受けたようだ。まぁ”自称”九尾の生まれ変わりがそんな扱いを受けたら当然なのだろうが。

 しかし及川はそんな下っ端のことは気にせず、次に自身の胸に手を置いて話し出す。


「そしてその次、ウチと『江口』はこの課のナンバー2、まぁ二人の直属の上司ってとこやな。」


 及川とその江口って人が俺の上司になるのか....


「江口って人はともかく、及川が上司ってなんだかなぁ....」


「なんや、何が不満や。」


 及川は俺の不満をゆうに超えた、超不満に満ち溢れた顔で俺を睨む。


「いや、だって及川18とか19くらいでしょ?そんな年下が上司って...ねぇ?」


 そりゃそうだ。及川はオンラインゲームでガチギレしているような年下の関西娘だぞ?そんなのが上司ってのは自分としては納得しがたい。

 ....すると、及川は俺の言葉を聞いて、なぜか笑い出した。


「ぷぷぷ....っく!あっはっはっはっは!!」


「な、なんだよ及川、何が面白いんだよ。」


 及川は笑いながら、そして何故か少し嬉しそうに口を開いた。


「いや、すまんすまん!w 言うてなかったけど、ウチ、やで!w」



「・・・・・・・・」



 その場を、沈黙が包み込む。


『30』


 この30とは、彼女の年齢か?本当に?

「おぼろげながら浮かんできたんです、30という数字が。」とかじゃなくて....?

 俺の記憶が正しければ、その数字は18の12個上のはずだ。


 この目の前の、銀髪少女が、三十路....!?


「......な、」


「......なな、」


「「なんですとォ~ッ!!」」


 俺とナノハの絶叫がこだましたのであった......




 続く!!





 サキ「ちなみに、若さの秘訣は?」


 及川「たこ焼きをふぅふぅせずに食うコト。」


 サキ「...チッ。」


 及川「え?」

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