「わたしで童貞捨てたくせにっ」って、姉が言ってきた……
花房 なごむ
朝チュン
頭が痛い。二日酔いなのだろう。
昨日実家に帰省して姉と2人、酒を飲んでいたのまでは覚えている。
俺は高校卒業して上京して働き始めて2年。
姉は亡くなった両親の実家を継いで花屋をしている。
住居兼職場の花屋は街の端っこを彩る小さな花屋でしかないが、姉にとっては大事なものであることは知っている。
「……頭痛い……」
リビングで寝てしまっていたと思っていたが、ベットで眠っていたらしい。全く覚えていない。
とりあえず起きて顔を洗って歯を磨く為に立ち上がって洗面台へと歩く。
「姉さん、おはよ」
「あ、
長い黒髪をポニーテールにして寝巻きにエプロンという格好の姉はどこかよそよそしかった。
昨日何か変な話でもしたとか、なんかあったっけ? なんて思いながらも歯を磨く。
頭が鈍く重たくて痛い。
酒はまだ得意ではない。にも関わらず2年ぶりに姉と話してはしゃいでしまったのだろう。
昔はべつに姉とそんなに仲がいいわけではなかった。というか普通の姉弟である。
だが大人になると昔よりも接しやすくなったと思えるから不思議だ。
俺もこの2年で多少の社会の荒波に揉まれたからかもしれない。
実の姉という今や唯一の肉親に対しての安心感というか、そういうものを感じていたのだろう。
今まで酒で記憶を無くすなんてことはなかった。
「……飲み過ぎたな……」
お酒を飲むと記憶を無くす人が一定数いると言われているが、実際には記憶を無くすのではなく記憶ができなくなるらしい。
要するに冒険の書をセーブしてないまま電源を消しちゃったみたいなことらしい。
上司とか先輩に付き合わされて飲みの場に行ったりしてもそこまで酷いことにはならなかった俺だったが、まさか姉と酒を飲み交わしてこうなるとは思ってもいなかった。
そこまで飲んだ記憶が無いのに二日酔いの頭痛が頭に刻まれるのは理不尽極まりない。
「頂きます」
「い、頂きます……」
朝食を作ってくれた姉と2人でご飯を食べる。
頭が痛くてあまり味がしないような気がするが、なんかほっとする感じがする。
姉さんはチラチラと俺を見てはどこか気まずそうである。
……これは俺あれか、なんかやっぱ昨日やらかしたか?
「姉さん。俺、昨日のこと覚えてないくらい飲んだみたいなんだけど、なんかあった?」
「え、あ、うーんと、うん……」
顔を赤くしてわたわたする姉さん。
昨日の俺は一体なにをやらかしたんだと聞くのが少し怖くなった。
「ほ、ほんとに憶えてない、の?」
「うん。かつてないほど二日酔いしてるくらい憶えてない」
正直喋りたくない。骨伝導で自分の声が頭に響くまである。
「……………………くせに」
「ん?」
「わたしで童貞捨てたくせにっ!」
「………………」
姉さんが、女の顔してる……。
マジですか……そうですか。
ヤッちゃったか俺。
姉をひとりの女にしてしまったので、責任を取らないといけないようだ。うん。頭が痛い。
「え、待って……。童貞卒業したのに俺憶えてないってこと?!」
「そこぉッ?!」
お酒はほどほどに。
酒は飲んでも飲まれるな。ってな。
あはは〜…………笑えねぇ。
「わたしで童貞捨てたくせにっ」って、姉が言ってきた…… 花房 なごむ @rx6
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