第2話    出逢い・デス




「これが魔物まもの……か……」



 距離を取りながら、じっくりと睨み合う。見た目は可愛らしいものの、明らかに憂太の知るウサギよりサイズが大きい。


(この世界でオレは、まだスライムにしか出会でくわしていない……この短剣で倒せるかどうか……)


「いや……行くしかない……!」


 覚悟を決め憂太はそれに向かって走り出した。初めてながら、短剣を力強く握り何度も振りかざす。



「オレはっ!……っ、転生者てんせいしゃ!だーーー!!!」



 しかし、ウサギ魔物は持ち前の俊敏さでそれを避ける。避けられた反動で憂太の体勢が崩れる。


 そのまま力んで振り続けていると、短剣が手から離れ、見当違いの方向に放り投げてしまう。



「あっ、やば……」



『シャーーーッ!!!』



 ウサギは落ちた武器を見るや否や、鳴き声と共に憂太の顔を目掛けて飛び出してくる。


(はやっ!ウソだろ速く拾わなきゃ──)


 焦って拾いに行こうとしたため足が絡まる。




「死ぬ──」




 憂太がこけたため、その瞬間ウサギは飛びかかる対象を失った。




『ギュッ!』




 速いスピードを保ったままウサギが木にぶつかり、そのままゆっくりとずり落ちる。



「あっ、危ねえ……」



 自分のアンラッキーで運良くウサギを倒した憂太は、ほっと胸を撫で下ろした。


(こんな形で魔物を倒すことになるとは……)

 



『レベルアップしました』




 その表示と共に憂太は飛び起きる。


「レベルアップ!ステータスが見られる……!」



 【Lv.2→ 4】

 【攻撃力:18】

 【防御力:20】

 【保有スキル:スキルテイクLv.1 粘液Lv.1 】

 【獲得スキル:俊敏Lv.1】



「おお!スキルが増えてる!レベルアップで獲得したのか」


 早速獲得した《スキル:俊敏》を使ってみる。


「俊敏!」


 明らかに身体軽くなる。試しに動いてみると、自分の移動速度が上がっているのがわかる。


(これは期待できるぞ!正直前二つは……よくわからないが、これなら戦闘に使える!)


 大きな収穫スキル獲得に満足し、今度は倒したウサギを片手に小屋へと向かう。



 ──────────────────────



(空もオレンジ色になってきたし、今日はあそこで野宿かなぁ……)


「あれ……?」


 小屋が見えてきたところで、憂太は人影を見つける。


(あっ、人だ!!!)


 先ほど居た小屋の前におじいさんが腰をかけていた。


 カゴにはきのみがたくさん入っている。どうやら収穫の帰りらしい。


(話しかけるべきかどうか……)


 一瞬、頭の中のストッパーが働く。自分の前世での社交性に足が止まったのだ。


 だが憂太のこころは、真っ直ぐにおじいさんに向いている。


(いや、オレは第二の人生をやり直す!そのためにはコミュ力だって!!!)


 憂太は、両手をぐっと握りしめ、力強くおじいさんの元へと歩き出す。


「お、おやおやこんにちは、旅の人──」


 おじいさんが挨拶するも、憂太は緊張で表情と全身が強張っていた。


(いやいや何この子、なんでこんな睨んでくるの!それによく見たらめちゃくちゃ拳握り込んでるしっ)


 おじいさんは、あまりの怖さから持ち物を差し出し始める。



「すっ、すみません!きのみもお金も渡しますからー!!!」



 憂太も緊張から何も理解していなかった。



「……へ?」


 ──────────────────────



「なるほど、この村に来るのが初めてで緊張していたんだねえ」



 憂太は先の誤解を解くと共に、この世界のことを知るために沢山質問をした。


「あっあの、魔法ってありますか!冒険者って!ギルドって!」


「なーに一つずつ聞いておくれよ」


 久しぶりの会話と初めての異世界人への質問に興奮して、口が速くなる。


「魔法は、ありますか!」


「あるね、魔法スキルだ。魔法使いという役職もあるくらいだから」


(おお、役職システムもあるのか)


 頭の中に、屈強な剣士や耳の長いエルフの魔法使いが浮かぶ。完全にアニメや漫画本の世界観だ。


「じゃ、じゃあ、冒険者はいますか!」


 憂太には密かな夢があった。


 ファンタジーの世界で、魔法使いや剣士のような役職につき、戦いで味方や他の冒険者を圧倒し、うなぎのぼりにランクを上げていく。


 そんなテンプレートのような成り上がりの夢が。


「あぁ、村にたまに来るよ」


 心根でずっと憧れていた魔法や冒険者の存在に、憂太は胸を躍らせる。


「っくーー!!!じゃあギルドは!」



「んーここにギルドはないよ」



 ギルドはないという言葉に肩を落とす。


(そうか……、強い魔法やスキルで街中の注目の的……!……にはなれないんだ……ん?……)


 頭の中で回答の内容を再生し直し、もう一度おじいさんに問いただす。


「……るんですか……?」


 憂太がぼそっとつぶやく


「ここにないって……、あるんですか……!」


「だからここにはないって……」



「ないってことはないんじゃなくてあるんだ!あるんだーーーーー!!!」



「なーに言ってるの君ぃ」



 村までの道中、おじいさんにこの世界の常識を教えてもらい、お礼に倒したウサギっぽい魔物を渡すことにした。


 村に若者が少ないためか、魔物の肉は珍しいらしく、その夜は食事と寝床を提供してもらった。


(まさか転生して一日で村に着いて、布団を敷いて寝られるとは……。)


 おじいさんの話で、この世界にギルドがあるがあることが分かった。


 ギルドには、様々な役職の冒険者が集まる。強い魔法使いや剣士に会えるかもしれない。


(どんな冒険者がいるんだろう……)


 ワクワクで想像が広がっていく。そもそも魔物やスキルを目の当たりにできているだけで幸せなのだ。


 そして、この世界なら憂太自身にだってその可能性がある。


(ギルドでクエストを取り、魔物を倒す。賞金でお金持ちになって将来は美人な女性と結婚を──)


 憂太はばっと起き上がり、高らかに宣言する。




「オレは!強くなってギルドで大儲けするぞー!」




 大声に反応して別の部屋で眠っていたおじいさんが飛び起きる。



「んなっ、なんだっ!魔物か!」



「……わからんが一応武器をドアに立てかけておこう……グーー、スピー……」


 幸せな妄想に拍車がかかって、憂太はあまり寝付けなかった。



 ──────────────────────



 朝になると、憂太は早々に村を去る準備をしていた。


(こうしちゃいられない、すぐにでもギルドに行ってみたいっ……!)


 興奮で瞳孔は開き気味だったが、身体はフルに回復していた。 


「朝食を持ってきたんだが、取り込み中だったかな」


 おじいさんに事情を話すとギルドがあるという街への道順を教えてくれた。ディエスという街らしい。


 荷物をまとめた憂太は、森に入る手前で、改めておじいさんに挨拶をする。


「君も去っていくのは悲しいが、冒険者なれるような役職を頂ける・・・といいねえ」


「はあ……」


(『頂ける』ってどういう意味だろう……)


 深くは考えず、憂太は今朝までのお礼をした。


「部屋だけじゃなくて、色んなことを教えてくれてありがとございました」


「てっきりこの村に移住するもんだと思っていたよ。道中はくれぐれも魔物に気をつけるんだよ、くれぐれもだ」


(昨日もなーんかおかしな雄叫びが聞こえてきたしぃ)


 念を押すおじいさんの頭には、昨夜の声と恐ろしい魔物のイメージが浮かんでいた。


「わかりました、気をつけます」


 おじいさんにお礼をして、憂太は走り出した。



 ──────────────────────



 聞いた説明では、まっすぐ進んで川が見えてきたら川上に進むそうだ。単純すぎる道順にで少し不安も感じた憂太だったが、そのおかげでやりたいことが思い浮かんでいた。


「俊敏!」


 それは、ディエスまでこのスキル俊敏を存分に試すことだ。


(ほんとに速いぞ!野営も覚悟してたが、これなら目的の街まで今日中に着けるんじゃないか!)



「俊敏!俊敏ッ!」



 そうこうしていると、また例の通知が鳴る。



『レベルアップしました』



(あれ、魔物なんて倒したかな……レベルもそのままだし……ん?)


 ステータスバーを見ると、《スキル:俊敏》がLv.2に上がっていた。



「おお!使い続ければスキルのレベルも上がるのか!」



 テンションが上がり、憂太に悪い考えが浮かぶ。



(じゃあディエスに着くまで、《俊敏》を使いまくれば良いんじゃ……)



 ニヤッと笑って走り出す。憂太は川を見つけてからも《俊敏》を使い続けた。


 しかし、夢の異世界ファンタジー的世界とはいえ、物事はそう簡単にはいかなかった。


「なんだかさっきよりも速くなった気がする!まるでローラスケートでもっ!着けているみたい……だ──」



 突然目の前がぐらつく。頭もガンガンとして息も絶え絶えになる。



(息、息しないと……。頭、苦しい……痛い……痛い──)




『バタッ──』




 そのまま憂太は川の側で倒れてしまった。


 

 ──────────────────────



 数十分後、近くを通った男が憂太に気がつく。



「……冒険者か?短剣一本でソロ走り、体力尽きてぶっ倒れ……。こいつ、バカだな……」



 そう呟くと、おもむろに憂太を担いで、川上の方へ歩き出した。




 続く

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