第3話   ギルド・デス




「っばいやっばい!遅刻する!!!」




 ガバッと身体を起こす。


 目を覚ますと、そこには見知らぬ天井があった。どうやら意識を失っていたらしい。


(夢……?いや違う、ここは明らかに異世界だ。なぜならオレの身体が明らかに小さ──)


「少年っ、気がついたー?」


「わっ」


 白いエプロンを巻いた女性がこちらに話しかけてくる。40歳くらいで恰幅のいい印象だ。


 少年、という呼ばれ方ということは、少なくとも15歳前後といったところだろうか。


 憂太の中で自分のイメージがぼんやりとではあるが形成されていく。


「あなたが魔力切れで倒れていたところをギルドの人が助けたくれたのよ」


 周りを改めて見渡すと、そこは病室だった。


(魔力切れか……、スキルを使い過ぎると頭痛や立ちくらみで立っていられなくなるというアニメの設定は間違っていないようだな……)


 強き異世界愛を持つ憂太は、患者ながらその状況と創作物の擦り合わせを行っていた。


「大丈夫?自分のことや周りのこと思い出せる?」


「はい、おかげさまで……」


「じゃあわたしは他の患者を診るから、質問があったら声かけてね」


 手厚い待遇に感謝を伝える。憂太の身体に痛みはなく、すぐにでも動けそうな回復ぶりだ。


 ギルドまでこのまま向かうため、その女性に場所を尋ねることにした。


「あの、ここからギルドへの行き方を知りたいんです。ディエスという街にギルドがあるって聞いて来たんですが」


 両手を合わせ嬉しそうに答える。


「あら、やだ!あなたギルドに入りたいの?」


 いやに明るい反応に、憂太は困惑しながら答える。


「はい……」



「良かったわね、ここがディエスよ」



「えぇ?!」



 に確認すると、運ばれたのはギルド・ホスピタルというギルド併設の病院だそうだ。そのため、ちょうど裏に目的のギルドがあるということもわかった。


(そういえばギルドの人が連れてきたって言ってたな……)


 憂太は恩人に心の中で感謝する。


(よもや目的地のすぐ隣まで運んでくれるとは……)


 怪我もしていないため、今日中に退院していいと伝えられた。すぐにでもギルドに向かおうと立ち上がり、体を動かしてみるが頭痛はない。魔力にも問題はないようだ。


「あら、もう出て行くの?」


「ええ、身体に問題はないので」


「お大事にね。ギルドに来てくれるならみんな喜ぶわ〜、あなた、可愛い顔してるからっ」


(か、可愛い顔……)


 照れて身をよじった憂太だが、その言葉で自分がこれまで顔を確認していなかったことを思い出す。この世界の『新しい自分』を見ようと、病室で鏡を探す。


(見つからない、この世界には鏡すらないのか?)


 憂太は顎に手を当てて少し考えた。


(そうだ、お姉さんの瞳に映る自分なら!)


 お姉さんの瞳をじっと見つめる。よく見ると、微かに自分が写っているのがわかる。


(なにこの熱視線!なんなの!歳上好きの村の子なの?!)


 姿が見えるほどではなかったため、くるっと方向を変え別の方法を探す。周りを見渡していると、窓の外に水汲み場があった。憂太は、お姉さんにお辞儀をしてホスピタルを出る。


(急に出ていったわね……ハァ顔暑……村の高齢化でそういう趣味の子も多いって聞くけど……)


 水を汲んだ桶の前で顔を翳す。入射角や顔の高さを調整していると、そこには綺麗な金髪と青い瞳の可愛らしい顔立ちの少年が映っていた。


(おお、コレはなんとも。悪くない、悪くないぞう!)


 病室では、貯まった水の前で顔を上下左右に動かしている憂太の姿をお姉さんが心配そうに眺めていた。


(あの子、大丈夫かしら……きっと頭でも打ったんだわ)



 経過観察のメモが憂太のカルテに追記された。


 ──────────────────────



 ついに憧れのギルドに辿り着いた憂太は、ギルドの看板の前で、まるで自分の足で辿り着いたかのように、堂々と仁王立ちをしていた。




「ここがギルドか!」




 盾、鎧、剣といったファンタジーでしか出会えない代物を携えた三者三様の姿の冒険者が行き交う。


 その光景に憂太の前日の疲れは吹っ飛んだ。


(興奮してきたぞっ……!生ギルド!生冒険者!)


 奥には行政役所さながらの窓口がいくつか分けられていた。憂太は《その他》の窓口で案内を受けることにした。


「すみません、冒険者登録……をしたいんですが」


(ここで、良いんだよな……?)


 はい、とロングヘアの綺麗な女性が対応する。


「冒険者登録ですね!ではこちらに記入をお願いします」


 出された紙には、名前や役職の欄、所属ギルドの有無などいくつかの項目があった。今わかっている部分はほぼないので、できるところだけを記入する。


(名前!決めていなかった……。流石にここは書かないと怪しまれるよな……、適当にユウタでいいか……)

 

《ユウタ》と書き込むが、ユウタは困ったことに自分の年齢も確認できていない。


 前の世界で言っていたなら、気遣いハラスメントに当たるような回答者リソースの高い質問だが、思い切って聞いてみることにした。


「あの……オレって幾つくらいに見えますか?」


 他に確認のしようもない。すると、若さゆえか嫌な顔もされず笑顔で答えてもらえた。


「んー、12歳……から18歳……ほどでしょうか!」


 やはり、年齢の予想に間違いはないようだ。ここでも適当に15歳と記入する。


「ええと、……別ギルドでの登録なし……、新人冒険者のユウタさんですね!ハッ15歳、アタリです!」


 ガッツポーズを構える受付嬢のピュアさに、元の世界で渇き傷ついていたユウタの心が洗われる。彼女から書類の内容を確認される間も、しばらくは上の空で答えていた。


(可愛い……転生して良かった──)


「それで、最後の……役職の欄が空白なのですが、こちらは……」


「かわ……え、あ……役職?そこは決まってないです」


 惚けた顔でそう答える。ユウタは役職のことを完全に忘れていた。楽しみな異世界要素ではあったが、他の質問で聞きそびれてたのだ。


(役職についてもおじいさんに聞いておけば良かったな……どんなものがあるんだろう……!)


「決まっていない?……そう、ですか……」


 明るかった彼女が気まずそうな表情をして資料に目を落とす。


「で、でも大丈夫です!私が責任を持って、ユウタさんに合った役職をお選びします!」


 そう言った彼女の目は完全に泳いでいた。何か気を遣われているようだ。何かまずいことを言ったのか不安になる。


 少し場に沈黙が流れる。


「そ、そういえば自己紹介がまだでしたよね、私はこのギルドの受付担当、ニコルです!よろしくお願いしますね!ユウタさん」


 ──────────────────────



 それからニコルは、ユウタを連れてギルドの中を案内してくれた。


「ここが、リクエストボードです。こちらでクエストの発注と受注を行なって頂きます」



「おお!!」



 目を輝かせ、右から見たり左から見たり、離れたり近づいたりと忙しなく観察する。ニコルは苦笑いしながら、ユウタの背襟を引っ張り次の場所へと移動する。


「そしてクエストが完了したら、先程同様受付にいる私たちにお渡し下さい。承認は物品そのものの場合もあれば、魔物の一部を討伐証拠とする場合もあるので、忘れないで下さいね!」


 他の冒険者一行が魔物のキバを受付で提出し、報酬を受け取っている様子をちょうど目にする。



「おお……おお!!」



 感動で体の動きを制御できないユウタ。


 真横にまで近づき凝視する。彼らと受付嬢が身を引き、驚いている。



「や、やらんぞ」

 


(ギルドにクエスト、ニコルさん綺麗な受付嬢に冒険者パーティ!アニメや漫画の中みたいだ!)


 加入を果たしたユウタは、はやくもギルドの面々に迷惑をかけながら、異世界人生を謳歌するのであった。




 続く


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