異世界いきたい‼︎=ただのユーウツ⁇
日々憂
第1話 DEATH
「はーー、いきたいなーー」
大学の空き教室で一人、オレは机に突っ伏していた。『行きたいってどこへ?』、誰かにそう聞かれても
(
それがオレの願いだった。
いや……本当は……!
「異世界いきてーーーーーーー!!!」
大人数用の無駄に広い教室で目一杯に叫ぶ。
「てーーーーー」
「てーーー」
「てー」
情けない叫び声が教室の中を無意味にこだまする。
「はぁー」
ため息をつき、オレはいつものように一人で大学を出て歩き出した。
すれ違う他の学生グループを少し横目で見ながら足を進める。
(このまま大人になって、無駄に生きて、無意味に人生を終わらしていくのかな……)
(じいさんまで……ずっと一人で……)
そう視線を下に落とすと、突然地面が大きく揺れだす。
大きめの地震だ。振り返ると大学や大学近くの建設現場が凄まじい勢いで左右に振れている。
(……!この揺れのデカさは……危ないっ!)
走り出した途端、目の前に建設中の建物から瓦礫が落ちてくる。
(ここにいたら……!)
その時、なぜかオレの足が止まった。地面はまだ揺れ続けている。
(ここにいたら……なんだ?)
(このままここにいて、大怪我か死ぬかして……それでなにか困ることがあるか?今のオレに……)
そんな思考が巡って身体が固まる最中に、オレの頭上を黒い影が覆う。
そう、オレは見ての通りの
さっきの叫びだって心からの本音で、このまま仕事や家事に命を賭して生きるよりかは──。
『ザンッ────』
気付いた時にはもう、建築用の大きな鉄骨が体を貫いていた。この状況で逃げるかどうかを悩む人間に、神から天罰が下ったようだった。
はっきりと分かる。自分が命をかけて人生に取り組んでいないから、死の
赤くなる視界に意識が朦朧としながら、オレは強く願った。
(来世オレは、ちゃんと生き直したいっ……)
(自信満々に楽しい人生だったって……言えるよう……な……!)
そこで完全に意識を失う。
『アース66
──────────────────────
「……イッテテ」
音と衝撃で目を覚ます。身体には草が絡まり、頭上から葉がぱらぱらと落ちてくる。どうやら、この木の上から落ちて地面にぶつかったらしい。
(ん、この木の上?)
自分が落ちてきたと思われる方向を見つめる。
「木より上ってことは……空、だよな……」
人型にくり抜かれた葉の隙間から、眩しい空が見える。憂太はもっと周りを見ようと、体勢を起こし歩き出した。
(あれ、おかしいな。少し目線が低いような──)
自分の身体をよく見ると腕や足が短く、軽くなっていた。
「それに……なっ、なんだコレ……」
カラフルで見慣れない植物、見慣れない服、腰に刺さった短剣、そして何より──。
『ポムポムポム──』
目の前を歩いている水色の球体を見て、憂太は確信する。
(これは……ス、スッ、スライム……!)
「異世界ッ!!!キターーーーーー!!!」
突然の大声にスライムがビクッと反応する。
──────────────────────
(っって、ちょっと待て……!つーかオレ死んだよな……?!さっき道で歩いてて……突然地面が揺れて……)
この状況において、最大の違和感を思い出す。憂太は死んでいたのだ。あの瞬間、たしかに。
「なんでオレ……生きてんだ……?!」
数刻前の死の記憶と今目の前にある景色に憂太は大きく困惑する。先程見つけたスライムを揉みながら、現状の整理をする。
「夢って感じでもないんだよな……。オレは生きてて、身体も小さくなって……いや、転生ってそういうものか……」
主人公が死後、生きる強い意志や神様の気まぐれによって魂が運ばれ、生前とは違う世界、異世界の人間として第二の人生を歩むことができる。
異世界には魔法やスキルといったゲームで見られるような力が存在し、人々はその力を使って日々の生活や魔物の討伐などを行なっている。
それが、アニメや漫画本で憂太が知った転生だった。
(もし……、これが夢じゃなくて現実なら……。あの世界とおさらば!そして異世界で新しい人生を生きられる!)
喜びのあまり、触っていたスライムをさらに強く摘む。
『プギューーー』
憂太に強く摘まれ、スライムがおかしな鳴き声で鳴く。よしっ、と勇ましい顔で決意する。
「オレはこの二度目の人生をたっっぷり楽しんで生きるぞ!」
「まずはっ──」
笑顔で体を回し、自分と周りの状況をよく見る。何も持っていない上に、森の中で一人という心細い状況であったことにここで気がつく。
冷静になった憂太は、テンションが下がってボソボソと呟く。
「まずは、野営からだよな……あーテント、テント作らないと……」
憂太はスライムを片手に森の奥へと進んでいった。
──────────────────────
森の中を散策していると、古びた森小屋が見つかった。
「よかったー、こーれで自分で作らなくて済むぞ!」
古い小屋ではあるものの、薪が近くにまとめられており、鋸などの作業道具も立て掛けられていた。
(それに、小屋があるってことは──)
この様子は、ここが人の出入りのある森であること、つまり近くに村や街があることを意味していた。
(ま、上手く関わる自信はない、が……)
憂太の前世での経験を思うと、コミュニケーションスキルは自信があるとはいえない分野であった。
だが、一刻も早く異世界の住人に会わなければ、森で迷っている間にいわゆる魔物に襲われたり、盗賊や山賊がいる世界なら殺されたりするかもしれない。
(考えてても仕方ない……)
憂太は村や街を見つけるか人に会えるまで自分の力で生き延びなければならない、と意思を固める。
──────────────────────
(次は食べ物を探すか……、食べれるもの食べれるもの……)
木々の方を見渡した後、憂太は片手に持っているものに気づく。
「じぃーー」
『プ、プギッ!?プギーー!』
腰に刺さっていた短剣を取り出して、スライムに突き刺す。
「えいっ」
スライムがどろどろと溶け出して、ただの粘っこい液体になる。
(これって食べられる、かな……)
憂太がそう考えていると、ピピッという音と共に突然目の前に文字が現れる。
『レベルアップしました』
「うわぁ!!!なんだこれ!」
目の前にステータスバーが表示される。
前世で知るステータスとは、自分のレベル、体力、発動する魔法やスキルが細かく記載されているものだった。
憂太の前に現れたものも同じもので、スライムを刺したことでたまたまレベルアップし、出現したようだ。
【Lv.1→ 2】
【攻撃力:18】
【防御力:20】
「アニメで見るやつじゃねえか!おお!!!」
「Lv.1→2、ほぉ、今のでレベルが上がったのか……他にも攻撃力や防御力なんてのもあるのか!」
初めて見るステータスバーに興味津々の憂太は、触れようとしたり後ろから覗いてみたりと様々な検証を行なってみる。この手のファンタジーシステムが厨二心に刺さるのか、落ち着きがない。
「すり抜ける〜〜〜。重なる〜〜〜」
幽霊のようなポーズを取りながらステータスバーを通り過ぎるなど、ひとしきりふざけてみる。満足した憂太は、ステータスのスキルの欄にも目を落としてみる。
(ん?《保有スキル:スキルテイク》に、獲得スキルが……、……《粘液》??)
『シュン──』
前触れなく、ステータスの表示が消える。表示が見えていた辺りで手を動かしてみるが、反応はない。
「ん、おーい、アレ……?消えちゃった」
(なんなんだ今の、《スキルテイク》と《粘液》……?とりあえず使ってみるか……)
「スキルテイク!」
特に何も起こらなかった!発動の仕方が違うのだろうか……。
「スキルテイク!スキルテイク!」
「スキルッテーーィクッ!」
色々な体勢で何度か唱えてみるも、そのスキルは発動されなかった。
「はぁはぁ、なんだコレ、恥ずかしいな……」
羞恥心に耐えきれなくなり、もう一つ確認できた方のスキルの発動を試みる。先の辱めによって期待値が下がっていたため、片手で体勢も整えず、投げやりで唱える。
「粘液ぃ〜」
すると、思いがけず手を翳した辺りから粘液が噴出してきた。
『ブシュー──』
べとついた地面と溜まった液体の気味の悪さに思わず大きい声が出る。
「わっ!ナンダコレ、気持ち悪ーっ!」
(オレのスキル、コレとよくわかんないので二つかよー……)
──────────────────────
スキルの内容を知った瞬間こそ憂太は拗ねていた。
だが、創作の世界でしかお目にかかれなかったものを目の当たりにしたことで、憂太の表情は一秒も待たずにニヤケ顔に変わる。
「でもこれってあれだよな、レベルが上がって、どんどん魔法とかスキル覚えて、火の玉とか雷とか出せるやつだよな!」
こうも興奮できる要素があると、憂太が前世の
そう感じられる風景がこの世界には散りばめられている。
「おいおい、たまんないぞ転生生活!早く強い魔物を倒したり、冒険者ギルドで美女と出会ったり──、ってそれはいいか……」
森を進んでいくと、前の世界にはなかった
たまに動いている花や明らかに毒っぽいキノコが生えていたりするため、特有の不気味さも感じられる。
憂太が他に気がついたことといえば、先程のスライムのような魔物が少ないということだ。
(うん、これなら安全に歩けそう)
しかし、そんな考えとは裏腹に、背後からガサッと物音がする。木々の中から何かが近づいてくる。
(なんだよー……!全然なんかいるじゃんっ!!!)
おそるおそる振り返り、よく目を凝らすと、小さく白い身体に赤い目を光らせている。
(ひいっ……!ウサギっぽいけど……)
一見ただのウサギのように見える。だが、肉食動物感剥き出しのキバが口元で光っており、赤く血走る目は完全に獲物として憂太を補足していた。憂太は確信する。
「……
『キュルルルー!!!』
続く
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