第5話 箱庭 (プロキシー)
「おやじー、古いパソコンたくさんあるよねぇー
一台貸して~、子供にそろそろ渡そうとおもってるんだけどさー」
「あゝ、でも古いのばかりだぞ、いいのか?」
「別に、ネットつなげて、動画が見れれば、いいからさー」
「まぁ、いいけど、お前も小さいとき、Ddosの踏み台にされた事あったからなぁ、
『箱庭』作るか…」
「箱庭?…」
「時々、監視して、ブロックとかできた方が、いいだろ」
「フィルターソフトじゃダメ?」
「わからんからなぁー、人任せだと…ソフトと自分で管理した方が精神衛生上安心だろうに」
「まぁ、やれる事はした方が良いと思うぞ…」
「そりゃそうだけど、やってくれるんだろなぁ」
「あゝ、暇だから基本設定までは、やるけど、管理はお前の仕事だからな」
古いミニタワーPCと古いタブレットPC、そして、小さいモニターなど…を渡し、
まずは、タワーPCの設定を始めた。
ミニタワーPCとは言え、記憶装置の容量は、昔に比べれば、広大な海
何しろ、タブレットの初期設定と日々のデーター、
そして、通信記録を保存する場所。
孫に渡すPCは起動の度に初期設定に一旦戻るようにした。
「一応、これで、アクセス先、時間帯はわかるだろうが、ドメイン名を偽装されていたらわからないから、注意をするように」 といって、
簡単な運用を説明して、孫には、タブレットPCを渡した。
タブレットPCを手にした孫は、
「これ? 新品?」と目を丸くした。
「いや、少し古いものだけど……嫌か?」
思わず探るように聞いてみる。
(やっぱり中古は、子どもには嬉しくないか……)
けれど孫は、画面をくるりと回しながら笑った。
「ううん、違うよ。液晶とキーボードが離れたり、くっつけられたりして、
なんか、変身するみたいで面白いなって」
その言葉に、思わず頬がゆるむ。
(メカニカルなものは、子供は好きだよなと、少し、安心した。)
横で見ていた息子に、ふと懐かしそうに言った。
「お前も昔、キッドピックスを始めたころは、そんな感じだったな。
あの頃はネットなんてなかったから、ただパソコン渡して終わりだったけど」
「ああ、そうだったな……。
“PCでも触ってろ”って、ゲームをやらせておけば大人しかった。
…今はそうもいかん時代」
孫は、タブレットPCで最近、お絵かきに夢中らしい。
生成AIと会話(チャット)しながら、
<どう、変えたらいい?>
<こうしたら、いいのでは?>
と、まるで絵画教室で先生と話しているみたいにやり取りしているという。
その話を聞いて、思わず感心した。
(今の子どもたちは、教わるより“引き出される”時代なんだな……)
画面の中の“先生”は、決して怒らない。
どんな落書きにも「いいね」と返してくれる。
けれど、その一言が、孫の創造の芽を確かに育てているような気がした。
(誰だって、否定されれば反発する。
でも、ただ同意してほしいわけでもない。
同意した上で、“違い”や“気づき”、”ほんの少しのより良い方向”が欲しい)
画面の向こうの生成AIは、それを絶妙な距離感でやってのける気がした。
叱らず、褒めすぎず、まるで無限の忍耐を持ち、時には嘘をつく教師みたいだ。
…昔は、プログラムに「考えさせる」なんて発想はなかった。
だが今は、人が問いかけ、AIが考え、人がまた考え直す。
「箱庭」を作ったつもりが、気づけば自分もその中を覗かれている気がする。
技術ってやつは、いつもそうだ。
使うつもりが、いつの間にか、使われている。
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