第2話 天体観測
今年の夏、木星と金星が大接近するらしい。
普段、夜空なんて気にも留めない。
けれど、思えば毎年、何かしらの天体現象がある。
今や望遠鏡は地球を飛び出し、微細な光さえも逃さず、
次々と新しい発見を届けてくれる。
自分が子どもの頃は、図鑑を食い入るように眺め、
夜になると外に出て、遠い星々に思いをはせていた。
親にねだって買ってもらった小さな望遠鏡。
それで初めて眺めた月の凹凸。
そして土星――図鑑で見たままの輪が本当に見えたときの、
あの胸の高鳴りはいまも忘れられない。
この夏、孫に木星を見せた。
どうやら宇宙や天体に興味があるらしい。
(血は争えないな……いや、子どもは誰だって空が好きなのかもしれない)
望遠鏡を覗いたあと、孫がぽつりと言った。
「縞模様、あんまり見えないね。大赤斑は?」
「ネットの写真のほうがすごいじゃん」
……返す言葉が、見つからなかった。
そうだよなぁ。
眼視観測には限界がある。
でも、もっとワクワクさせてやれたはずだ。
急いで準備した、手軽な望遠鏡。
せっかくなら、ちゃんと準備して見せてやるべきだった。
「よし! 明日は、すごいものをちゃんと見られるように準備するから」
「ほんとに?」
今度は月に望遠鏡を向けた。
幸い、月ならこの小さな望遠鏡でも十分。
クレーターの凹凸、その浮遊感は伝わったようだ。
(少し、安心した)
幸い天気は良い。
翌日は昼のうちから庭に出て、三脚を立てた。
今度は二十五センチの望遠鏡。
さらに、電子観望用という最新式の望遠鏡もセッティングする。
テーブルを置き、ノートPCをつなぎ、
ヘッドマウントディスプレイをセット。
キャンプ用の椅子も並べ、眼視と電子観望の両方が楽しめるように整えていく。
(今は極軸合わせも自動。追尾も簡単だ。
昔とは大違い――けれど、バッテリーや結線、ピント合わせ……
やることは、まだまだ多い)
夕暮れが近づき、少しずつ風が冷たくなる。
準備の手を止めて空を見上げると、
白い月が、昼の残光の中でぼんやり上り始めた。
あとは夜の天候と大気の状態――こればかりはどうにもならない。
「あぁ……ドームが欲しいな」
つい、口の中でつぶやいて、笑ってしまった。
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