デジタルネイティブ VS 老害SE

ワイドット(Y.)

第1話 デジタルネイティブ

-この夏休み、孫が遊びに来た。-


小学校二年生。わずかな間に、まるで別人のように背が伸び、見違えるほど大きくなっていた。


以前は、家のなかでは積み木、ブロック、お手玉と遊び、庭ではシャボン玉を追いかける。こちらが音を上げるまで、無邪気に元気いっぱいに走りまわっていたものだ。


それが、二年生にもなると、どこか落ち着きを纏い、急に大人びて見える。


時が経つのは早い。彼の成長を喜ぶたび、こちらはそれだけ、確実に歳を取ったことを突きつけられる。


そうか、見違えるのは孫ばかりではない。鏡の向こうで、知らないうちに深く刻まれた皺の数、重くなった足取り。その一つ一つが、私の残された「時間」を声なく囁いている。喜びと寂しさが混じり合い、夏の光の中で曖昧に揺れる感情。一体いつから、こんなにも静かに、過ぎゆく季節が恐ろしくなってしまったのだろう。


悲しいことを言うようだが、この身に許された「季節の巡り」は、あと何度残っているのだろうか。咲き誇る桜の、あの鮮やかな宴を、あと何度、この目で愛でることができるのだろう。孫の成人式までは、あるいは。その結婚式までは、どうにか。ひ孫の顔を見る夢は、あまりにも遠く、残酷な残光のように思えてならない。


この夏、孫は、うちにくると、挨拶もそこそこに、書斎のパソコンに向かって走っていった。

「パソコンつかわせて!」

「いいよ、電源わからない?」

「うちのと違うから、わからないし、勝手にパソコン触ってはダメって」

「そうか。は、電源オン、後はいい?」

「うん、ユーチューブみれるよね?」

「動画見たいんだ?」

「うん、家では、ずっと見てると怒られるから」

「そうだね、見てもいいけど、あまり長い時間はだめだよ」

「うん、わかってるって」


まだおぼつかないタイピングで、画面にへばりつくようにして検索ワードを入力した。


どうやら、Vtuberの動画らしい。


「へぇ~、面白いの、それ?」


「うるさい!集中させて!」


強い言葉が、弾かれたように返ってきた。そりゃそうだ、せっかく手に入れた時間、一瞬たりとも奪われたくないのだろう。


私は静かに口を閉じ、椅子に腰かけ、その背中を眺めることにした。


耳に流れてくるのは、人工的な高揚感を持つ、甲高い声。画面の奥の、架空のキャラクターと一心に向き合う孫の横顔は、真剣そのもので、まるで世界に二人きりであるかのように静謐だった。


(私が夢見た**「積み木」や「シャボン玉」を追いかけた時間**は、もう戻らない。私たちが知りもしない、「新しいひかりの玉」を懸命に掴んでいるのだ。)



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