第3話クリスマスの朝は

 今の時刻は0時20分つまりクリスマスになっちゃったわけだが、サンタさんがクリスマスプレゼントを届けてくれるなどという夢のあるイベントは発生しなかった。世の中そんなに甘くないらしい。

 まあ、ミニスカサンタさんとクリスマスを迎えることができたのはよかったのかもしれない。椿さんの透明化についてはやはり謎な面が多かったわけだが、今日はこれ以上のことは分からなそうだ。もしかしたら、本人もそこまでよく分かってないのかもしれないが…

 

「冬真は何時までここにいるの?」


 そろそろ帰れということか。普通に考えたら、俺がド深夜に人の家に何時間も居座っているのもおかしな話なので帰れと言われても仕方ない。


「さっさと帰れってことですかね。日葵さん?」


「そうです。早くお帰り下さいまし」


 やはり、早く帰れということだった。明日も早いので早く帰ったほうがいいので、まあ、そろそろ家に帰りましょうかね。


「では、そろそろ帰ろうと思います。お邪魔しました」


「え~帰っちゃうの?もう少しお話しようよ~」


 椿さんは、もう少しいてもいいと言ってくれたが、日葵は早く帰れオーラを俺に送ってくる。


「お姉ちゃんも早く寝なさいよ。明日もバイトあるんでしょ」


「うん!!ある~。でも、午後からだからノープロブレム」


「じゃあ、帰ります。お邪魔しました」


「またね~~~また来てね」


「来なくていいからね~」


 玄関に向かうとき椿さんから何か渡されたが、家に帰ってから開けるように言われた。わりと大きい封筒を渡されたので何が入っているのかが全く想像できない。大きさで言えばA4の紙が入るぐらい。


 外に出るとやはり寒い。雪はすでに止んでいた。周りの田んぼは雪で少し白くなっていた。白い世界の中にこの道だけが真っ直ぐ続いているだけだった。ふと空を見上げると星空が広がっていた。周りが暗いのでよく見える。しかし、星に対する知識は義務教育レベルでしかないので今見えているものが何なのかはよく分からない。ただ一つ言えることがある。とてもきれいだ。彼女と見れたらなおよかったと思う。『星が綺麗だね!!』『いや、君のほうがきれいだよ』みたいなことが出来たらそれが一番理想的な姿だと思う。

 あっ、きつねだ。久しぶりに見た。この辺にはホンドギツネが住んでいたりするわけだが見ることはあまりない。半年に一回見る程度だ。キツネはなかなか逃げなかった。まるで、こちらを気にしていないようだった。でも、一分ほどでどこかに逃げて行ってしまった。

 その後、5分くらい外を歩いたら家に着いた。早く寝ないとまずい。冬休みは始まったわけだがいつもとあんまり変わらない時間に起きなければならない。なぜなら、明日は部活に行かなければならないからだ。まあ、その割に宮前家でダラダラして時間を一時間ほど溶かしてしまったわけだが…。ちなみに、明日は6時には起きなければならない。起きれるのかは正直、分からない。

 

 2時半ぐらいに布団に入った。起きる時間を6時としたとき寝る時間は3時間ちょっとになるわけだが割とマジで起きられるかが分からなくなってきた。

 その日、見た夢はうちの高校の制服を着た誰かと学校の近くのカフェで逆不思議の国のアリス症候群について説明されるという内容だった。モラトリアム症候群が関係しているとか大人になりたくないという気持ちが引き金として、周囲の人たちを自分の都合のいいように作り変えているとか、日葵から聞いたこととは全然、違うことを説明された。詳しく聞いてみたのだが説明はよく分からなかった。説明が難しすぎて理解できなかった。何回か詳しく聞いてみたがやっぱりわからなかったのであきらめた。最後にと思いその人に名前を聞こうとしたがそこで夢から覚めてしまった。

 時計を見ると六時少し前だった。そして、ちょうどスマホのアラームが今なっている。少し不思議な夢だったのと逆不思議の国のアリス症候群についてより興味がわいてきたので椿さんと日葵に今日、聞きにいってみようかなと思った。

 とりあえず、今は部活に行く準備をすることにした。朝ご飯を食べてバス停に向かう。クリスマスの朝はいつもと違って、静かだった。いつもならこの時間に駅に行くほうのバス停には数人の人が待っていることが多いが、今日は自分と日葵の二人だった。


 日葵に今日あったことを聞くことにした。ちなみに、日葵はバス停で俺の顔を見た瞬間、めんどくさい奴に会ってしまったというような表情をしていた。そんな中でも俺は気にせず話しかけたわけだが、このまま、行くといつか本当に口もきいてくれなくなるかもしれない。


「日葵、おはよう」


「どうしたの?普段ならバス停で私に話しかけてくることなんてないでしょ」


 日葵の声色からはやはりめんどくさいやつと思われているに違いないと確信することができた。まあ、そこまで俺が嫌われるようなことをした覚えはないので少し困ってしまう。


「今日、逆不思議の国のアリス症候群のことを夢で見たんだ。学校の近くのカフェでうちの高校の制服を着た誰かと話すって感じの夢だったんだけど、逆不思議の国のアリス症候群についていろいろ説明されたんだよ」


「それでどんなことが分かったの?」


「いや、そんなに何のことを言っているのかよく分からなかった。モラトリアム症候群がどうこうとか大人になりたくない気持ちが関係してるとか言ってたけど詳しいことはそんなによく分からなかった」


「モラトリアム症候群?つまり、大人になりたくない気持ちが原因で逆不思議の国のアリス症候群は引き起こされていたということかなの?」


「俺に聞かれてもそんなによく分からんて」


 ここで、バスが来てしまったため、ここで話は途切れてしまった。冬休みが始まったことで普段いるはずの学生が乗っていないのでバスの中は非常に空いていた。二人掛けの席が空いていたため二人でそこの席に座った。少しの間沈黙が流れた後に日葵が先に口を開いた。


「冬真はお姉ちゃんの逆不思議の国のアリス症候群についてどう思ってるの?」


 どうと言われてもそんなに逆不思議の国のアリス症候群について知らないのでこれと言って言えるようなことがあまりない。まあ、強いて言うならばお姉さんのミニスカサンタ姿は素晴らしかったと伝えたいが伝えたら俺の首が飛ぶ可能性があるので、ここは安牌を取ってそのことは言わないようにしておこうと思った。


「逆不思議の国のアリス症候群についてはあまりよくは分からないが俺が椿さんを見れた理由は少し知りたい」


 その後は、日葵が心を少しは開いてくれたのか二人で話をしていたら、バスは終着の駅に到着した。ここから先は向かう方向が違うので、挨拶を軽くして別れた。


「じゃあ、また今度機会があったらお話でもしましょう」日葵はそう残して俺とは反対方面の電車のホームに降りて行った。




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