第2話サンタクロースとクリスマス
「次は新町、新町でございます。お降りのお客様はお手近のブザーでお知らせください」
家の最寄りのバス停が読み上げられる。俺は近くのボタンを押そうとした。しかし、先にお姉さんに押された。サンタクロースは割と自分の家の近くに住んでいた。
「次、止まります。お降りのお客様はバスが止まってから席をお立ちください」
「サンタさんはここで降りるんですか?」
「ここで降りるわよ。ここのバス停の目の前の家が私の住んでいるところだからね」
バス停の前の家と言われたらあそこしかない。なぜなら、バス停の前には田んぼと畑と一軒の家しかないのだから。俺の家も見えるには見えるが10分くらい歩かないと着かない。
「僕もお姉さんと同じ場所で降りるんですけど…」
お姉さんは結構、驚いていた。俺も驚いた。だって、割とご近所なのにそのことに気づかなかったから。
「お待たせしました。新町でございます。ご乗車ありがとうございました」
時刻は23時15分。ようやく、家の最寄りのバス停に着いた。お姉さんが降りるとき、運転手の人にお姉さんの姿は見えてないようだった。なぜ、見えないのかは俺にはよく分からない。お姉さんと別れる前に今、一番気になっていることをお姉さんにぶつけた。
「お姉さんの姿が周りの人に見えない理由を教えてください」
お姉さんの表情が少し笑っている。そして、少し考えている様子だった。バス停の前にはバスが行ってしまった後は車が全く通らないので静かな時間だけが広がっていた。音がほとんど聞こえないこの場所は時間の流れが止まっているようにも感じた。
「きみ、この後、時間空いてる?私の家に来ない。そしたら、私の秘密少しだったら教えてあげてもいいよ」
少し迷った。が、家に帰っても家には誰もいないからお姉さんの家に行ってもいいかなと思った。父親は名古屋に単身赴任してるし、母親は看護師をやっているので、今日は夜勤なので朝まで帰ってくることはない。俺はサンタクロースの家にお邪魔させていただくことにした。
お姉さんの家まではバス停から徒歩30秒。俺の家より全然、近いので羨ましい。雨の日とかは10分も外を歩いたら遮るものがこの辺は何もないからびしゃびしゃになる。
お姉さんの家は、一軒家で広い庭がある。東京ならここに3軒は家が建っているだろうといった芝生も広がっていた。まあ、この辺の家は大体のところがこのような感じになっている。この辺の家は無駄に土地が広い。自分の住んでいる家も例外に漏れず無駄に広い。
家の中に案内されてリビングでお話しすることになった。
「お姉さんはここに一人で住んでるんですか」
「いや、家族4人で住んでる。でも、今日はお父さんとお母さんは親戚の家に行ってるからいない。だから、今日は妹と二人。さすがにもう寝たんじゃない。23時過ぎてるし。そうだ!!クリスマスだしケーキ食べない?紅茶かコーヒー淹れてあげるから」
「紅茶でお願いします。もしかして、バイト先で売れなかったケーキですか」
「残念ながら不正解。店長がクリスマスだからって普通にくれたんだよね」
なかなか本題に進むことができないがケーキはおいしい。このダージリンとイチゴのショートケーキの組み合わせが非常に良い。
「あれ、お姉ちゃん帰ってきてたんだ。は?なんで、こいつがこんな時間にいるの!!あと、なんでサンタの格好なんかしてるの?」
この人物には見覚えがある。いや、なんなら中学の同級生だ。
「お邪魔してます。お姉さんとバスで会っていろいろあってここに来ました」
「意味わかんないんだけど!!お姉ちゃんもなんでこんな時間にこいつ家に呼んでるの??うわ、しかも酒臭い。サンタの格好も意味わからないし」
酒臭いとは俺も思った。サンタの格好も最初見て意味不明だった。あれ、そういえばなんで普通に椿さんのことが見えるのだろうか。
「日葵ちゃんもケーキ食べる?お姉ちゃんがバイト先でもらってきたものだけど」
椿さんは、笑っている。さっき言われたことを全く気にしていないようだった。笑っている椿さんの表情と少し怒っているような顔をしている日葵の様子は結構、対照的だ。
「今はケーキいらない。私は明日食べる。」
「じゃあ、紅茶はいる?」
「紅茶もいらない。私は緑茶飲むから」
椿さんの言うことをすべて否定し、自分は一人で緑茶を飲むらしい。中学の時からあまり変わっていないようだ。ただ、人にはっきり物事を伝えられることが彼女のよさでもあるのかもしれない。
日葵は一人でお湯を沸かしてお茶を淹れている。そろそろ椿さんにバスで起きた出来事について聞きたいと思っていたところ椿さんから話しかけられた。
「私の透明化について知りたい?」
「知りたいです。椿さんが言っていた秘密についても知りたいです」
そして、なんか三人で夜のお茶会が始まった。なぜか、一人緑茶飲んでる奴がいるが…
「私のこと駅の時点ではどう見えてた?」
「駅の時点では、全く見えませんでしたよ。周りにいる気配すら感じられませんでした」
「でも、私はバスに乗っていた。なのに、君は私のことが見えなかった。君、ならどう考える冬真君。そう、つまり、見えるようになったときには何かしらの変化が君か私のどちらかにあったということになるの。何か心当たりはある?私が見えるようになった時に起きたこととか」
なんか、すごいどんどん話を進められえているような気がする。椿さんのペースに飲まれている気がする。
ただ、サンタクロースが見えるようになったことについてはなにも心当たりがない。気づいたら隣にミニスカサンタがいたというだけだ。それ以上でもそれ以下でもない。それだけがまぎれもない事実なのだから。
「心当たりとかはないです。そもそも、僕には何で椿さんが周りに見えないのかの理由が分からないんですけど。あと何で日葵には普通に見えてるんですか?」
気がつけば時計の針は12時を指している。いや、0時を指している。日付は25日に替わりクリスマスになった。よいこは寝る時間だと思うがここにはどうやらよいこはいないらしい。
「私が見えない人がいる理由は私自身が周りに見られたくないと思った時に周りに見られなくなる力を持っているから。なんか半年くらい前に使えるのに気づいたんだよね。でも、家族とかには使えないみたいで日葵ちゃんには普通に見えるみたい」
俺が見えることができる理由がますますわからなくなる。そもそもなんで急に見れなくなったりするのかが分からない。
「なんで、急に周りから見られなくなったりするんですか?」
ここで日葵が口を開いた。
「冬真は不思議の国のアリス症候群って知ってる?」
「ごめん。名前しか聞いたことがない」
「やっぱり知らないと思った。あんたみたいなやつが知ってるはずないもんね」
なんかすごい馬鹿にされている気がする。知らないものは知らないのだからしょうがないと思う。なのに笑われた。結構、ムカつく。
「不思議の国のアリス症候群っていうのは体が大きくなったり小さくなっているように感じたり、色覚に変化が現れたりするの。お姉ちゃんの場合はこれを周りの人に引き起こさせてるの。不思議の国のアリス症候群は子供のころにかかることが多いのに大人になってからお姉ちゃんのような症状が出る人が多いから、逆不思議の国のアリス症候群ってインターネットとかの一部からは呼ばれてるみたい。お姉ちゃんの場合は色覚異常に透明化が含まれているみたいだった。私の手を見てて。お姉ちゃん力止めてみて」
「あれ、空間が少し歪んで手の大きさが変わった。つまり、今までの世界は幻覚だったの?」
「いや、そうとも言えない。さっき見えていたものを虚像とし今、見えているものを本物としたとき、実際の物体から出た光線と、虚像から出た光線を区別する方法は原理的には存在しないから、一概には幻覚や錯覚ということには出来ないの」
「ごめんだけど。全然、なに言ってるのか分からない」
なんか、日葵に少し笑われた。やっぱり、ムカつく。人の気持ちを読む力は残念ながらどこかに捨ててきてしまったようだ。これだから、理系はとも思ったが、単純に人としての性格が悪いだけの可能性もある。実像とか虚像とかについて中学でやったけど正直、そんなにちゃんとよく分かってはいない。しかも、今回の逆不思議の国のアリス症候群とかに絡められてもよく分からない。もう少しわかりやすく説明してもらいたかった。
「日葵ちゃんが言ってることよく分からないよね。私もド文系だからよく分からない~」
よかった。仲間はいたようだ。なんか椿さんも分からないならしょうがない気がする。まあ、逆不思議の国のアリス症候群とか面白いものもあるんだなあ~とは思った。
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