I need you
五月雨もがみ
第1話冬空の下で
-12月24日のクリスマスイブ-
俺は22時40分に北桜井駅を発車した最終バスに乗っている。バスには疲れた顔をしているサラリーマンが2名、俺の知らない高校生が5人、二人掛けの席でイチャつくカップルが一組とだいぶ眠そうな顔をした男子高校生(俺)の計10人が乗車している。
駅前なのでまだ明るく車通りもそれなりにはある。車内にはカップルの楽しげな声だけが響いていた。ただ、眠すぎてそんなのは正直に言ってどうでもいいといった感じだ。
10分ほどするとカップルは降車し、20分ほどの時間が経つみんないなくなっていた。バスの車内は自分と運転手さんの二人になりバスのエンジンだけが車内にこだまするようになった。都会の人からしたらバスで乗客が一人になるのはあり得ないかもしれないが、この辺りではよくあることだ。
外の景色を見れば、どこまでも続く田んぼと田舎道。民家はあまりない。これを見たら大体の人はこの道にバスが通るとは思わないだろうし、俺の住んでいる場所がどれだけ不便なのかわかってもらえると思う。
外をぼんやりと眺めていたらバスの窓に雪がつき始めている。今日の天気予報では星空がきれいに見えるとか言っていたのにおかしな話である。雪の降るクリスマスイブという言葉は少しロマンチックに聞こえるような気もするがバスにぼっちのこの状況では孤独感が増幅されるだけだった。
クリスマスまでに彼女でもできていたらまた少し違ったかもしれないが1週間前に残念ながら振られた。2か月前くらいには
私は、今年はクリぼっちですよ。孤独にクリスマスを迎えるんですよ。ちなみに、時計は23時を少し過ぎたところを指している。
気がつくと、バスに揺られながら5分ほど寝落ちしていた。一瞬、ちょっと焦った。もし、寝過ごしてしまったとすれば、何もないバスの車庫の近くのバス停で野宿することになるからだ。クリスマス野宿はさすがにやりたくない。
「ジングルベル・ジングルベル鈴が鳴る~…」
運転手さんの鼻歌が聞こえてくる。誰だってクリスマスイブなんかにこんな時間まで仕事したくないと思う。俺も今日は夜の22時までバイトだった。だから、こんな時間のバスに乗っている。
目をつぶりながら鼻歌を聞いていたがどこか様子がおかしい。この歌は前から聞こえているのではない。もしかしたら横から聞こえているかもしれない。恐る恐る左を見ると駅の時点ではいなかったはずの座席に大学生くらいのサンタクロースの格好をした見るからやばいやつがいた。
しかし、チラチラ見ていると、顔は元カノよりも可愛くて胸も大きくおまけにミニスカサンタときたではないか。チラチラではなくガン見したい。
「もしかして、君、私のことが見えるの?」
声をかけられてしまった。心の中はドキドキである。少し酒臭いのが余計に不安を増長させる。いや、でも可愛いから全然ありだなとも思った。少し時間をおいてミニスカサンタさんの質問に答えた。
「はっきりと見えますよ。僕の目にはミニスカサンタさんが見えてますね」
少しの間をおいて、なんかミニスカサンタさんの顔が少し赤くなりスカートを手で押さえて恥ずかしがっている。
「あんまり、ジロジロみられると恥ずかしい」
なんか、ミニスカサンタにあんまりジロジロ見るなと言われた。不思議な気持ちになった。だって、男だったら絶対、ジロジロ見るもん。いや、ジロジロ見ないにしても絶対みんな何回も見返すと思う。
「え?なんで、そしたらミニスカサンタなんてやってるんですか。もしかして、性癖が死ぬほど歪んでる彼氏に命令されて仕方なくとか?」
「きみ~、面白いね。本気でそれ考えてたの?」
ミニスカサンタは今度はニコニコし始めた。酒が入っているのが関係しているのだろうか。でも、さすがに酒が入っているからといって自分からミニスカサンタになるやつはほぼいないだろう。ただ100%いないとも言えない。もしかしたらお姉さんが酒が入ってテンションが高くなってやっただけかもしれないので一応、ここでは『ほぼ』と表現しておこう。真実はまだわからないから。
「別に、そんなに僕もバカじゃないので本気で言ってるわけではないですよ。さらに面白い話が合ったりとかするんじゃないですか??」
「そんなに期待されても。大した話はできないわよ。私、ケーキ屋でバイトしてるんだけど店長がサンタクロースの格好してケーキ売れとかいうからサンタクロースやってるだけだし」
クリスマスイブにバイトとは面白い人がいたものだ。クリスマスイブと言ったら彼氏とクリスマスデートしてるやつが大半だと思っていた。孤独な人もいるんだな~と思った。まあ、俺も今日はボッチでバイトしてたから、なにも言えないんだけどね。
「ミニスカであるのは何でですか?」
「店長の趣味じゃないかな。私には分からない。あと、君の名前を私に教えてもらえたりする?」
「
名前も知らないミニスカサンタに名前を伝えてよかったのか今更、疑問がわいてきたがもうすでに遅い。一応、お姉さんの名前も聞いておこうかな。
「お姉さんの名前も教えてもらうことってできたりしますか?」
「いい質問だと思うわ、少年。私の名前は
やるなと言われるとやりたくなるのが人間という生き物だ。人間なんて大体の奴がひねくれていると個人的に考えているが、みんなもそう思うでしょ?
「酒飲んで遊んでるだけでしょ~?だって酒のにおいするし」
「事実だからなにも言えないんですけど。でも、お酒いっぱい飲んだのは彼氏に振られたんだもん…」
え?酒が入ってるからか急に泣き出した。今、彼氏に振られたとか言っていたが、なんかいろいろめんどくさそうだが今日の出来事にも関係がありそうだった。
気が付くと3つ前のバス停が読み上げられもうすぐで家の最寄りのバス停になる。
バスは冬空の下を力強くエンジンを轟かせて田んぼ道を走っていく。外には冷たい風が吹きつける。
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