第3話 未知の隨に(まにまに)
不思議な白い舗装路を私は澪と共に歩く。そして、私たちの足元には、ふわりと淡い青白い光が漂っていた。
なんだろう、これは。まさか、精霊か?だとしたら、随分とファンタジーな世界だな、ここは。そういう系統の小説が好きな澪に聞いてみるか。
「澪、このふわふわとしてそうな青白い光はなに?精霊か何かかな」
「いやぁ、多分違うんじゃないかな。ほら、ここって未来っぽいでしょ?だからさ、新しい電気か何かじゃない?精霊は属性ごとに色が違うはずだし」
なるほど、精霊は属性で色が違うのか。確かに、電気もあり得るな。
もしも未来なら、新しい形式のものが沢山ありそうだし。雷は黄色とされてるけど、実は青白いからね。
「ま、そういう事さ。多分」
そこは「多分」なんだね。まあ、なんでも知ってるわけじゃないよね。しかも、異世界っぽいし。
そして、私たちは一本道を歩いて、大通りにやってきた。
光が縦横に走る透明な建物、宙に浮かぶ乗り物、風に舞う小さな粒子たち
——この街は、幻想と科学の境界線に立っていた。きっと、この世界もそうなのだろう。
「うわぁ!」
「これは…綺麗だね」
透明な街の景色に圧倒されながら、私たちは大通りを進んだ。
建物の壁はどれも鏡のように滑らかで、通り過ぎるたびに自分の姿が映り込む。ふと、その中の一枚に目を奪われた
「やっぱり、色が変わってるね」
「すごい! ザ・未来って感じ!あ、壁がね!」
それは、色が変わった私たちが映る、古いが異様に綺麗な、厳かな雰囲気を放つ店。何故か看板がない。扉さえない不思議な建物を通り過ぎようとしたとき、影ができた。
私と澪の上。そこには——光る布を入れたバッグを持った女の子が、降ってきていた。
意味がわからないという人もいるだろう。大丈夫、それは正常な反応だ。私も分からないからな。
ふむ、彼女は誰だ?そもそも、なぜ空から降ってくる?その光っている布は何だ?ああ、頭が回らない。
考えすぎて逆に思考停止していると、澪が素早く動いた。
澪は空から降ってくる女の子をキャッチして、そして転んだ。顔面から、豪快に。原因は…多分、あれだな。靴ひもがほどけている。多分、さっき私たちが空中散歩した時だな。
「痛いっ…あれ、痛くない?」
「澪、大丈夫?それに、空から降ってきた君も」
はて。痛くないと?あ、そうか。ここの床というか、舗装路は衝撃を感じないんだったか。命拾いしたな、少女よ。
あ、まてよ。そもそも、衝撃を感じないんだ。つまり、怪我をしないも同然。別に命拾いとかそういうのじゃないんだわ。ちょっとここ、混乱するな。おかげで口調も変になったし。
「あ、あのっ!だ、大丈夫ですか…?」
「あ、わ、私は大丈夫。でも、なんで君降ってきたの?」
「えっと・・・ここのお店の裏口に入ろうとして、失敗した感じでう!あっ、噛んじゃった」
ふむ、裏口に入ろうとしたという事は、この店にも扉はあるのだな。そして裏口は、天井に繋がっている・・・?
考え込む私をスルーして、澪は靴ひもを直そうとした。澪はしゃがんで彼女のほどけている靴ひもを結ぶ。その瞬間——。
空気が震えた。足元の青白い電気の様なものが淡く光を放ち、周囲の壁が波紋のように揺らぐ。建物の壁面が、まるで液体のように歪み、淡い線が走る。低く、澄んだ音…すこし、風車の音に似ている。
その中心に、古びた木の扉が現れた。金属の取っ手には、光を透かすような紋章が刻まれている。
「・・・扉?」
「さっきまでは、そんなの無かったよね」
澪が息を呑む。そして、先ほど空から落ちてきた少女が、ぽつりと呟いた。
「——ここが、私の働いている…『
扉の向こうから漂ってくるのは、金属と木の匂い。鍛冶場のような、でもどこか神聖な気配を帯びている。
私と澪は顔を見合わせ、静かに頷き合った。未知への好奇心と、少しの不安を胸に——ゆっくりと、その扉を押し開けた。
如月神話 白咲 飛鳥 @asukani
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