真実の愛シリーズの作者は高貴な方だと噂されていますが、そんなことはありません!

yu102(あんかけ)

ちょっと違う世界で生きた記憶があるだけの平民です!

 


 私が住んでいる国の貴族は、おおむね三つの派閥に分かれている。

 一つ目は王族派。王族、というより国王と共に国を発展させようという派閥だ。国王、ひいては王族に従順すぎることなく、諫言も厭わないらしい。

 二つ目は貴族派。王族だけに頼らない、自分たちこそが国民の最後の砦なのだという派閥、らしい。王族が堕落した時のセーフティみたいなものだと思う。現実はこの派閥が一番腐り切ってるみたい。

 そして三つ目は国民派。民の声を聴いて、民に寄り添った政をしてこその貴族であり王族だという派閥だ。


 私が勤めている出版社は、多くの国民派の貴族が出資している。

 だからか、風刺系の本を出しても出資者から怒られない。むしろ推奨されてる。

 クレームが来ても、うちには○○様が付いてるもんね、で追い返すそうな。私はまだその現場に遭遇したことがない。作家が潰れりゃ出す物がなくなると、些事は全部それ担当の人がやってくれるのだ。

 そう。私は出版社所属の作家。フリーではないので書きたいものが書けるわけではない、だがしかし、諸々が守られている作家なのだ。


 何を隠そう。私こそが舞台化されている真実の愛シリーズの作者なのである!

 決して! 高貴な生まれではない! ただ日本という国で生きた記憶がある平民だ!




 事の発端は三日前の夜会だそうな。

 高位貴族が平民や低位貴族を見初めて幸せになったり不幸せになったりするシリーズ、通称真実の愛シリーズがそこで王族の話題になった。

 そして真実の愛シリーズを読んだことがないという王子に、貴族派のおっさんが、作者はさぞ高貴なお方であると噂があります、と言ったらしい。

 さぞ高貴なお方。つまり王族が作者なのではないかと探りを入れたのだ。

 何せ基本、貴族派に対する風刺盛り盛りの内容だからね。多くの王族に嫌われているらしい貴族派としては、何かしらやり返したかったんだと思う。

 が、本当に読んだことのない王子は、「そうなの?」と会場にいた全員、使用人も含めて尋ねたそうな。恋愛小説に興味なさすぎでは…と思ったけど、男の子ならそうなるかも。

 そうして、真実の愛シリーズの作者は王族なのか? そうでなければ高位貴族、あるいは低位貴族の誰かなのでは? と探り出す流れになった。

 おかげでうちの出版社がてんやわんや! 問い合わせだけじゃなく、製紙工場にまで圧力をかけにいくアホが出だす始末! 出版時の比じゃないくらいのわちゃわちゃだよ!




 結果、大物出資者が動いた。なんと臣籍降下して公爵になった王弟殿だった。大公じゃないんだ、と思ったのは私だけじゃないはず。…国民派だったんだね、王弟殿。

 動いたと言っても、理不尽にかけられた圧力をどうにかしただけじゃない。圧力をかけてきた貴族の不正の証拠を、ここぞとばかりに大放出した。

 …なんか法務部とかあるし、セキュリティも厳重だな、と思ってたら、実は国の諜報部の隠れ蓑みたいな扱いだったらしい、この出版社。

 あの、私ら国の機密情報とか扱えない平民なんですが、そちらさんは雇って大丈夫なんですかね…? あ、黙ってくれてれば大丈夫? それに元々保護も兼ねて監視付き? じゃあ大丈夫か……大丈夫かなぁ?


 まあ秘密を知っちゃったところでしがない平民にはどうしようもないので、今日も出資者たちが提示するテーマに沿って物語を書く。

 作家仲間は集中しきれないみたいだけど。知っちゃった以上落ち着かない気持ちはよくわかる。

 が! 書かなきゃ金は懐に入らない! この国には印税なんてものはないからね! 本屋さんから「そちらさんの出版した本が今月これだけ売れましたよ。なのでそちらさんの取り分はこれくらいになります」ってなってその分け前がくるスタイルなんで! ちなみにうちが卸してる本屋さんは国営です。富裕層の平民向けです。お金の誤魔化しはそうそうないはず!

 というわけで、書く。想像して、書く。

 ネットで婚約破棄ネタの話を読んでた記憶があってよかったな、と思うね。おかげで出版社の懐ほっかほかだよ。つまり私の懐もほっかほか! やったね!






※売られている本は手作業or蒸気機関を利用した製本工場製のいずれか。工場製は手作業製よりは安いけど、それでも本というだけでなかなかいいお値段。国民の懐があったかいから、本屋も出版社もみんな懐あったかほかほか。やったね。

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真実の愛シリーズの作者は高貴な方だと噂されていますが、そんなことはありません! yu102(あんかけ) @yu102

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