——時空が異なる、アパートで——

「――という話を書いてさ……」


 僕のスマホの下書きノートを覗き込む彼女が、読み終わる頃を見計らって、何となく照れ臭く話しかける。


「投稿してみようかと思って」

「――ふーん? ああ、それでか」

 彼女はテテン、と割り箸で赤い蓋を調子良く叩く。

「これ買って来たんだ?」

「久し振りだろ? あ、そろそろいいかも」


 読了時間5分弱。ちょうど良いあんばいだ。


 ――僕の書いた話とは


 異世界へ転移してしまった少女が働く、王国の治療院に、負傷した王子や、王子の護衛隊長が運ばれてくる。

 その治療のために使われるのが、『赤いきつね』と『緑のたぬき』だった。


 ――という、単純な話だ。

 ――よくみたら、なんだこりゃ? って話だな……。


 スポンサーの付く企画募集のために、作中には、二つの商品名を登場させなければいけない。

 早速近所のドラッグストアーにチャリを走らせ、二つとも購入していた。

 こういうことをしておけば、良いことが起きる、気がする。験担ぎだ。


「いいんじゃない? やってみれば?」

「いや、そーいうんじゃなくてさ……」


 ペリペリと赤い蓋を剥がしながら


「この音もいいよね……そこの記述はないの?」

「それは……ない……」

「ふーん」


 どんぶりに割り箸を入れ、お揚げを汁にジュッと沈み混ませる。


「ヒタヒタにして食べるの、美味しいよね」

「そ、だね……」


 僕も緑の蓋を開け、かき揚げ天をズブリと沈める。すでに柔らかく、ホロホロと崩れそうだ。

「感想とか、さ」

「うーん」


玉子を口へ運びながら


「――あざとい……かなぁ」

「あざとい?」

「異世界転移とか、キラキラ王子とかってさ、流行りじゃね?」

「まぁ……うん」

「カップ麺が、最高の治療薬だったってのも、スポンサー受け狙ってね?」

「いや、その辺はあまり……考えてなかったけど……」

「エリクサーが七味ってのは、少しだけ笑えたかなぁ」

「うーん」


 どんぶりの中のかき揚げはどんどんと崩れていく。


「でもさぁ……こんな話……考えたりするんだねぇ」

 ニカッと笑って

「いいと思うよ。頑張ってみなよ」

 うどんを食べる。


「う……」


 僕はすっかり原形をなくしたかき揚げを、汁と一緒に口にふくむ。


 ――けっきょく? 応援してくれるって……こと?


 彼女の感想は、ぴりりと美味かった。



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