第1章 平穏な日常が豹変するまで

第1話 まだ平穏な日常だった

 ピピピ ピピピ

うるさいなぁ、まだ寝かせてよぉ。

 ビビビ ビビビ

もう⋯ちょっと⋯だけ⋯

 ビビビビビビビビビビビ

もうわかった起きるって!

 ピッ

まだあまりはたらいていない頭を無理やり働かせて、思いうでを上げスマホのアラームを止める。そのままスマホで時間を確認すると7時ぴったり。さすが私。完璧かんぺきな時間だ。やっぱり良い時間に目が覚めると気分が上がる。さっきまで寝ぼけていた頭も今では嘘みたいにスッキリしている。

「ほいっと」

上半身を起こし、お気に入りの向日葵色ひまわりいろのベットから降り、黄色を基調きちょうとした自分の部屋を出たら、速攻そっこう洗面所に向かう。まずはビジュチェック!寝癖ねぐせと顔のむくみは女子の天敵てんてきだからね⋯。

 綺麗きれい好きなお母さんが毎晩まいばん掃除そうじしている真っ白な洗面台の上についているピカピカな鏡。ちょこっと考えることが好きなだけの平凡な中1である私、日比野ひびのあんずの平凡へいぼんな顔がそこに写る。丸顔の中につぶらなひとみと高くも低くもない丸めな鼻、少し赤く染まったほほにキュッと結ばれた小さめの口、いつもはポニーテールにされている黒髪くろかみくせのセミロングも、寝癖ねぐせがついてあちらこちらに自由に飛びね、もわっと爆発ばくはつしている。さいわい、あまりむくんではいなかったけれど、毛量が多いとただのポニーテールにするだけでも一苦労だ。一度髪をらしてかわかして、くしで何回もとかし、いまだに少しだけ広がってしまっている黒髪を高い位置できつくたばねる。ここまで25分。思っていたよりも時間がかかっちゃった⋯これは朝食急いで食べないと間に合わないかも⋯。

「お母さーん、ご飯もうできてるー?」

2階から1階への階段かいだんへ向かいながら大声で呼びかける。するとその1.5倍くらいの大声が耳にひびく。

「もうとっくにできてるわよー!あんず、お兄ちゃん起こしてきてくれなーい?遅刻ちこくするよーって」

「え、いまぁ?もう、しょうがないなぁ」

あのズボラ兄め、いそがしい朝に仕事を増やしやがって⋯。

 内心、面倒めんどうくさいと愚痴ぐちをこぼしながらお兄ちゃんの部屋へ向かう。【Fuyuki】と木製のプレートがかったドアを開け、青を基調とした部屋へ足を踏み入れる。うわぁ⋯まだベッドで寝てるの?ベッドの上で、こちらに背を向け丸くなっている黒髪くろかみ短髪たんぱつが私のお兄ちゃん、日比野ひびの冬樹ふゆき通称つうしょう冬樹にい。私と同じごく平凡なお顔立ち。何にも興味きょうみがなさそうな塩顔だ。

「ねえ、冬樹にい早く起きてくれない?私朝忙しいのにわざわざ起こしに来たんだよ?」

体が回転し、こちらを向く。いつも通りのツリ目気味の黒目と目が合う。

「あぁなんだ、あんずか。わざわざありがとな。すぐ行くから先に飯食べとけ」

いつも聞いている、少しムカつくキザなイケボとはちがい、寝起き特有のガサガサボイスが耳に入る。ちょっと面白い。

「w⋯はーい。⋯ってあれ?いつもスマホそんなところに置いてあったっけ?」

私の目に入ったのは、冬樹にいの背中側のベッドの上にポツンと置かれた氷の結晶の模様もようのカバーが付いたスマホ。冬樹にいのものだ。

「いやーこれはちょっと⋯」

あやしい。そういえば、いつも通りのツリ目だったのも変だ。普段の寝起きは、もっと眠くて機嫌きげんが悪そうな目をしているのに。もしかして⋯

「冬樹にい、起きてからずっとスマホいじってたでしょ!?私の気配を感じて急いで寝てたふりしたんじゃないの?」

「⋯その通りです」

私から目線を外して、いつもの半分くらいの声量で答える。ムカつく。

「はぁ?そのせいで私は朝の忙しい時間を使わされたの⋯?」

声にならない大きなため息が口かられる。冬樹にいはずっとバツが悪そうな顔をしてだまんでいる。

「ところで、何見てたの?」

冬樹にいの先程さきほどまでの顔とはうって異なり、目を泳がせ口をパクパクさせとてもあせった顔に豹変ひょうへんする。

「いやーそれはなんというか色々で⋯ってもうこんな時間!?やば!俺もう準備するから、あんずは早く部屋から出てってくれ!」

「え、いやまだ話は途中とちゅうなんだけど⋯」

冬樹にいにグイグイと体を押され

バンッ

とびらの外にめ出されてしまった。

「ほんとに朝から何なのよ⋯」

あきらめて1階へ降り、ダイニングテーブルに座る。今日の朝食は定番のさけの塩焼きだ。こうばしいかおりにお腹の虫がなる。ふと冬樹にいの言葉を思い出し、時計を確認する。もう7時!?やばい、家を出るまであと20分もない。

「いただきます!」

急いでいるときでも感謝かんしゃの気持ちは忘れずに、できるだけ速く食べ進める。着替えやカバンの準備、その諸々もろもろ爆速ばくそくで進めていくうちに、冬樹にいとの会話の記憶きおくなんてどこかに捨て去ってしまっていた。


p.s.序章を読み返したら、場面描写があまりにも少なすぎるなと感じたため、少し付け加えてみました。また、他の方の作品から学び、ルビもふってみました。

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