げっ歯類アイロニー

夏乃あめ

▓▓

 足音で誰か分かるようになった。



 理由あって、俺はこの家に来た。新しい家には先住の仲間がいた。



 そいつの名前は『すい』。本名は『スイカ』らしいが、誰もそう呼ばない。ニンゲンというのはいつも勝手だ。俺もその一員になった。



「ただいま、みつ。」

 このニンゲンは、パパと呼ばれている。足音が重く、ノシノシしている。朝イチに野菜をくれるいい奴だ。時々、俺を見ながら変な臭いのする『サケ』という水を飲んでは、上機嫌でウマいモノをくれる。



 だけど、コイツは臆病らしい。

「噛まれそうで怖い。」

と言って、食べ物を持ってくると、さっさと手を引っ込める。


 俺にも好みがある。デカい手はキライだ。昔を思い出す。

 前のパパもデカい手で温かくて。ある日から「ごめん。」ばかりしか言わなくなってこの家に来た。



 何を謝っていたんだろう。



 パパのヤツは家にいる時間が一番短い。テレビの音はやたらとデカい。でもたくさん話しかけてくれて、存在感だけはある。





「みつ〜。」

 足音も存在感も殆どない、髪長いメスはママと呼ばれている。とにかく足音が殆どない。


 理由は後で話すが、夕方になるとかなりうるさい。



 コイツは世話好きだ。毎日、家を掃除して新しいチモシーの床にしてくれる。木屑、チモシーの2層構造。床であり、食材……。最高かよ!

 俺の城、今日も改築!!


 その後に野菜をくれたり、水を変えたり、果物もくれる。



 それに報いるのは俺にはこれしかない。



 撫でさせてやる。


 十分に撫でるがいい。好きなんだろう?この毛並み。喉のフワフワの毛、たまらないだろう?

 コイツは慣れていて、俺のツボを的確に突いてきやがる技巧派。



「クルクルクル。」



 悦びの歌を思わず奏でるくらいだ。


 だけど、コイツはしつこい!

 とにかくしつこい!

 

 永遠にモフりたいのか?と思うくらいに長い。だから、時々甘噛みする。


 キライじゃない。

 しつこいんだ。



 隣のすいに聞いてみる。コイツはコイツで、かじり技を気の済むまで齧ったり、夜な夜な走り回りやがる。これだからハムスターは……、



可愛い。



 すいが言うには、

「ママと言うやつはチョロい。上目遣いすると野菜くれるぞ。」


 試してみた。



 チョロかった。





 この家には「お兄ちゃん」と「ちみっこ」という騒々しいヤツらがいる。



 小さいコイツらが、ママを爆発させている原因だ。


 1日何回もケンカをする。そして泣く。うるさいというレベルを超えた声で叫ぶ。



 耳が痛い。



 本当に、“耳”が痛い。



 そして、ママが荒ぶる。


「ケンカしない!!」



 耳が休まらない。

 俺らはデリケートなんだ。騒音は嫌い──、慣れた。


 人参食べていれば、そのうち終わる。



 すいも慣れたもんだ。夜勤専門だけあって、寝ている。


「ちょっとそっとの音にビビっていたら、このウチじゃあ、やっていけないぜ。」



 ヒマワリの種の外側を家の外に吹き飛ばす渋さ。たまらない!


 『すい』先輩、メスだけど。




 前の家を思い出す。この家みたいににぎやかだったのが、パパの元気がなくなって、この家に来た。



 この家は騒がしくて、前とは違う名前で呼ばれている。



『みーごろう』



 このウチで最初はそう呼ばれていたのに、いつの間にか『みつ』になった。何でもいいんだ、俺の名は。


 以前は『▓▓』

 誰もそう呼んでくれなくなった。



 今は『みつ』



 名前なんてどうでもいい。




 一緒にいる家族がいれば。




 早く俺様に、人参を持ってこい!!

 


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げっ歯類アイロニー 夏乃あめ @nathuno-ame

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