第1話 ”ようこそ、現実へ #2/2”

「最大の特徴はパトロン又はパートナーとなる異星体をお一方選んでいただける事。パトロンの場合、支援を受けつつ希望に沿うよう活動し、パートナーの場合はともに空想探索者として生活、活動していただく事になります。

 本ロールへの参加適正試験も兼ねた複数の架空世界経験の結果をもとに、異星体の皆様からナオさんへ届いておりますオファーのリストがこちらとなります。オファー総数は131件!ナオさん、期待の新人さんですね♪」


 ミキの広げた、シルク地の長手袋に包まれたほっそりとした左手のひらの上、突如空中に投影された透過型表示画面。

 そっと右手で押すと、ナオとの中央、目線の高さに画面が滑りこんでくる。


「お勧めは~……。ん~……。ん~?」

 その画面を見ながら順に繰っていくミキだがそのペースが加速度的に早くなるとともに、徐々に不安そうに、申し訳なさそうに表情を微かに曇らせてゆく。


 すでに記憶消去処理によりその記憶は失われているが、与えられている脳内情報によれば、自分はいくつもの世界を仮想的に経験しているらしい。大崩壊前でいう”異世界転生”や”VRMMO”といわれるような世界が、仮想的/バーチャルに再現されたもののようだ。

 その活動の記録も娯楽の一環として異性体へ配信されるとともに、空想技術への適正や、異星体にとって最も重要らしい”魂”の計測が行われる。

 架空世界での経験は魂に刻まれるが、記憶として自身で呼び起こすことは不可能だ。


「えと、ですね。このオファー情報は貸与される自室でゆっくり閲覧いただけますが、記載情報はプロテクトがかけられており、ナオさんと許可された者以外への漏洩防止措置が施されています。分からない事や、困ったことがあったら、遠慮なくミキにプライベートコール、くださいね。絶対ですよ! コールが来なかったら私からかけちゃいますからね~!」


 右手でちょんっと、浮かんでいた画面をミキさんがつつくと、ナオが左腕にはめた腕輪に画面が吸い込まれ消える。

 漏洩防止措置とは、例えば資格のない第三者へ情報を伝えようとするとその行為が自動的に阻止される(口頭であれば発言がノイズに代わる、物理的に書き写そうとすれば筆記する手が止まる等)仕組みを指す。情報媒体そのものへのプロテクトに加え、調整種たる人そのものに組み込まれた仕組みと連動した仕掛けの一種だ。


「続いてナオさんの現状の基礎身体能力と今後について、ご説明いたします。ちょっと失礼しますね」

 そっとナオの左腕にはめられた腕輪に指先で触れると、また新しい透過型画面が二人の間に浮かび上がる。

「地球人類の大崩壊前における空想文化を参考に作られたシステム、らしいですよ。異性体の皆様が探索者の情報を閲覧する際の受けがいいとか。ただ、あくまで指標にすぎませんのでこの数字をあまり過信はしないでくださいね」


 =========================

 氏名:ナオ

 ロール:空想探索者 ランクG

 パトロン:未決定

 パートナー:未決定

 ファン:4


 位階:0

 魂容量キャパシティー:100


 <能力値>

 HP(生命力) : 30

 MP(空想具現容量) : 30

 ATK(肉体基礎攻撃力) : 9

 DEF(肉体基礎耐久力) : 8

 IATK(空想具現能力 影響力) : 11

 IDEF(空想具現能力 耐性値) : 11

 INT(知性) : 14

 DEX(器用さ) : 8

 AGI(敏捷性) : 10


 <特性>


 <スキル>


 <装備>

 腕輪型標準デバイス(銀)×1

 生誕標準服 男性用×1式


 <所持金>

 10,000Neuro  (1,000,000Yen)

 =========================


 時々紅に濡れた唇に、たてた人差し指をあてがい、宙に浮かぶ画面を示しながらミキが説明した内容は主に次のようなものであった。


 <ファン>

 遊興惑星の住人の活動は感知不能な方式で常に記録され、異星体が自由に閲覧可能な他、編集され娯楽番組として提供されている。

 自然人類職の場合、文字通りいついかなる時も。ただし本人たちはその事実を知らない。

 空想探索者の場合、パートナー異星体の権限で一時的な記録の停止が可能。

 活動を注視している人数を示すのがファンの数字で、原則匿名となるが、支援を受けられる場合がある。


 <能力値>

 生誕直後における平均は10。

 経験を積み、自室に設置されている休眠ポッド等の所定設備にて休養をとる事で肉体に反映、上昇させることが可能。

 他にも各種手段で強化措置を受ける等の手段も有り。


 <能力値と位階>

 能力値が一定以上の水準に達すると、位階上昇が発生する場合がある。

 最大の恩恵は魂値の大幅な上昇と、後述カードによらない特性、スキルの開花可能性。

 位階3以上で中級、5以上は上級と分類され、位階7以上ともなると異星体が住まう地への招聘候補しょうへいこうほに挙がるようになる。


 <魂値とスキル/特性>

 ダンジョンでは敵性体の討伐や宝箱等からカードが入手可能。

 カードは2つの基準を元に、いづれかまたはその両方が混ざり合い生成される。

 A) 魂に刻まれた、生誕前の架空世界における経験から抽出具現化

 B) 共通概念からの抽出具現化


 カードの種類は大まかに3種類。

 1) キャラクターカード(架空体):原則ダンジョン内でのみ具現化可能な実態を持つ存在を呼び出す。(実体化)

 2) スキルカード(外付けスキル):魔法や超能力等、空想探索者自身が行使する能力を付与する。

 同時に実体化/付与可能な数は必要魂容量キャパシティーの合計が空想探索者の魂容量キャパシティー以下まで。

 例えば”魔法:火矢 必要魂容量キャパシティー 10”のカードを1枚自身に付与し、”小鬼 必要魂容量キャパシティー 20“を実体化するには常時魂容量キャパシティー 30を費やす事で維持が必要。カードを取り外したり、実体化を解除すれば魂容量キャパシティーは元に戻る。

 カードとは個人ごとに相性や適性がある。

 そして3種類目が、

 3)アイテムカード:武装や消耗品を実体化する。こちらは魂値を消費しない代わりに能力値により利用に制限がかかる場合がある。

 要するに、重すぎる剣は力の弱い方が持つとうまく扱えない、空想力関係値が基準に達していないと念動武器が稼働できない等。

 ダンジョン外で作られた物品をカード化することも可能。


「なおカードについては、当空想探索管理組合3階で買い取り/販売を実施していますので、お暇な時にのぞいてみてくださいね♪ お部屋はこちらになります。はじめはその……ものすごーく狭いですが、頑張ってランクを上げてくださいね! ランクは位階、功績、ファン評価等で上がるチャンスが得られますので。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る