第3話

 戦いは終わった。

 敵の斥候部隊は撃退され、戦場に静けさが戻る。


 「……ふぅ」

 俺は岩陰から立ち上がった。

 心臓がまだバクバクしてる。俺自身は何もしてないのに、全身が汗だくだった。


 街に戻ると、傭兵団の面々は勝利の余韻に浸っていた。

 「いやぁ、あの獣人の娘がすげぇんだ!」

 「一人で敵を薙ぎ払いやがった!」

 「高台から矢の雨、まさに英雄だぜ!」


 皆が口々にリリアを称えていた。


 「……すごいな、リリア」

 俺が声をかけると、彼女は褒められて照れているようで、どこか居心地悪そうだった。


 「……ウチだけ褒められてもな」

 「え?」

 「アンタがおらんかったら、ウチ、死んでた。……けど、それは誰も知らんやろ」


 そう、俺の力は誰にも知られてはいけない。

 俺が岩陰でただ震えていたようにしか、他人の目には見えないのだから。


 「別にいいよ。俺はほめられなくても。大事なのは勝てたことだろ?」

 俺が言うと、リリアは少しだけ笑った。


 「……アンタ、ほんま変わってるな」


 俺は肩をすくめた。

 「まぁ、俺も命かかってるからな。ユニットが死んだら俺も死ぬんだ。……運命共同体ってやつだ」


 「……馬鹿やん」

 リリアは呆れたように言ったけど、耳が少し赤くなっていた。


 戦争ばかりの世界。

 その中で俺は――“タワーディフェンス”というわけのわからない能力を頼りに生きていくしかない。

 そして、この日からリリアは俺の最初の仲間となった。


 その夜。

 宿屋の一室で、俺はリリアと向かい合っていた。

 といっても、小さなテーブルにパンとスープを並べての質素な食事だ。


 「……なぁ、リリア。ちょっと試したいことがあるんだ」

 「また妙なこと言い出すんちゃうやろな……?」


 俺は苦笑いしつつ、頭に浮かんだインターフェースを開く。

 【再現戦闘:利用可能】

 説明にはこうあった。


 ――実際の戦闘を再現し、ユニットを鍛えることができる。

 ――勝てば経験値ポイント獲得。負けても死亡扱いにはならない。

 ――ただしスタミナを消費する。一日に三回まで。


 「……ゲームでいう“リピート”ってやつだな。クリア済みステージをもう一回できるってやつ」


 「アンタ、ほんま変なことばっか言うな……」

 リリアはスープを啜りながら半眼でこっちを見る。


 「まぁ、騙されたと思ってやってみろよ。強くなるチャンスだ」


 俺は【開始】を選んだ。

 次の瞬間、部屋の中が光に包まれ、俺とリリアは――昼間の戦場に立っていた。


 「な、なんやこれ!? ……え、また戦争始まったん!?」

 「違う違う! これは再現戦闘、つまり“練習試合”みたいなもんだ!」


 【勝利条件:敵の撃退】


 表示された目標を確認し、俺はリリアを再び高台に配置した。


 戦いが始まる。だが昼間と違って、周囲には他の傭兵たちがいない。

 当然、全ての敵をリリア一人で相手するしかなかった。


 「ちょ、ちょっと多すぎるやろ!?」

 「踏ん張れリリア! まだ練習なんだから!」


 矢を放ち続けるリリア。だが敵の数はなかなか減らない。

 結局ギリギリで撃退には成功したが、息を切らして座り込む。


 「……し、死ぬかと思った……! 前よりキツいんやけど!」

 「そりゃそうだ、他の傭兵いなかったからな」


 俺の視界に文字が浮かぶ。

 【戦闘勝利:経験値ポイント獲得】


 「よし、リリア。ここで経験値を割り振るぞ」

 俺は獲得したポイントを彼女に注ぎ込み、一気にレベル3まで上げた。


 「……な、なんやこれ。体が軽い……腕に力が入る……!」

 リリアが驚いたように自分の腕を握りしめる。


 「これなら……次はもっと戦える。前よりずっと楽に倒せるはずや!」

 彼女の目に、初めて確かな自信が宿っていた。

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